2013年11月15日、韓国の鉄鋼最大手、ポスコの鄭俊陽(チョン・ジュンヤン)会長(65)が辞任を表明した。任期を1年3カ月以上残しての辞意表明となった。
3日前には通信最大手のKTの李錫采(イ・ソクチェ)会長(68)が任期を1年半残して辞任したばかり。両社とも旧国営企業で今は完全な民間企業だが、政権交代とともにCEO(最高経営責任者)の首がすげ替えられるという前例を覆すことはできなかった(2013年11月8日「韓国通信最大手KT会長、突然辞任」参照)。
「一歩前すら予測できないような厳しい経営環境にもかかわらず、ポスコは世界の鉄鋼業界で最も優秀な成果を上げてきた。しかし、激烈なグローバル時代において世界最高の企業に飛躍するためには新しいリーダーシップが必要だと判断して、後進に道を譲ることを自ら決めた」
2013年11月15日、鄭俊陽会長はこんなコメントとともに辞意を表明した。行間からは、何とも言えない無念さがにじみ出ているようにも受け止められるコメントだ。
完全民営化されても逃れられない政府の縛り
KTの李錫采会長もそうだったが、ポスコの鄭俊陽会長についても、2月末の朴槿恵(パク・クネ)大統領就任以来、「辞任は不可避」との声が産業界やメディアの間ではささやかれていた。
「青瓦台(大統領府)高官が辞任を迫った」「辞意を青瓦台に伝えた」などの報道が夏以降、何度か出たが、そのたびにポスコは全面否定してきた。
KTに対しては辞任した会長の背任なども視野に入れた検察捜査が始まるという激しい「圧迫」があった。ポスコに対しても、露骨と言えるほどの圧迫があった。
韓国メディアによると、2013年8月に青瓦台から「辞任」の打診があったが、ポスコはこれをいったん拒否した。すると、9月3日に突然、国税庁による税務調査が始まったのだ。
ポスコは今回の辞意表明については「外圧はなく、会長の意思」であることを強調している。
だが、韓国紙デスクは「鄭俊陽会長にはどうしても辞めたくない事情があった」として、「外圧は間違いない」と明かす。1つは「自分の任期を守り切り、政権交代とともにポスコのCEOが交代する慣習を断ち切りたいという強い意欲があった」(韓国紙デスク)ことだ。
ポスコは、旧浦項総合製鉄で国営企業だった。金大中(キム・デジュン)政権の2000年に完全民営化され、現在は国民年金が5.99%の株式を保有しているとはいえ、実質的には政府の保有株は「ゼロ」だ。外国人持ち株比率が51.8%に達し、支配構造の上でもグローバル企業である。
だが、2000年以降も、政権が交代するたびに「事件」が起きてCEOが交代する事態が続いていた。