2013年11月3日の日曜日、韓国の通信最大手、KTの李錫采(イ・ソクチェ)会長(68)が辞任を表明した。会長任期を1年半残しての降板となる。KTは政府機関が母体とはいえ今は純然たる民間企業だが、大統領が交代するたびに会長の首が飛ぶという前例をまた踏襲してしまった。
「KTのトップとして今の状況をこのまま続けることはできないと考えた」。11月3日、李錫采会長はKTの全社員にこう始まるメッセージを送った。文面からは任期途中で会長職を辞めることの無念さが強くにじみ出ていた。
カリスマ型CEOの無念の辞任
KTというのは、日本で言えばNTTのような企業だ。李錫采会長は、2009年1月にKT社長に就任、その2カ月後に会長に昇格した。任期3年の会長職を務めた後、2012年3月に再任されていた。
強いリーダーシップを持つ「カリスマ型CEO」として有名で、政府機関、公企業が前身であるKTに新しい風を吹き込んだ。
在任中に携帯電話サービスを手がける子会社、KTFを合併してKT本体に成長事業を取り込んだ。これを機に、KTFの大株主だったNTTドコモはKTに5%以上出資する大株主になった。また、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」を韓国の携帯電話サービス会社で初めて採用してスマホ時代を切り開いた。
さらに最近は、プロ野球球団の新設も決め、KTのイメージ向上も図っていた。
2012年の売上高は23兆7904億ウォン(1円=11ウォン)、営業利益は1兆2139億ウォン。有線電話事業の不振や携帯電話サービスの競争激化で「絶好調」とは言えないが、厳しい経営環境下で一定の成果を上げていたことは間違いない。
ところが、2013年の2月に朴槿恵(パク・クネ)大統領が就任すると、「李錫采会長交代説」がしきりに流れ始めた。
2013年夏には、「青瓦台(大統領府)高官が李錫采会長に辞任を打診した」などの記事が韓国紙に何度も出始めた。
その理由は、「李錫采会長が前政権(李明博=イ・ミョンバク=政権)時代に就任した人物だから」だ。