ホリエモン(堀江貴文さん)に会った。刑務所から出てきたばかりの頃、テレビに映っていたホリエモンより体はひと回り以上大きくなっていたように感じた。握手した手は分厚く、握力も強かった。両手でこちらの手を握られたのは、衆院選に立候補したときの名残だろうか。

 刑務所でむさぼるように本を読んだというホリエモンは、きっと体だけでなく人間的にもかなり大きくなったのだろう。そして、かつてのような自信が蘇り、過去の失敗は反省しつつも目ははるか遠く前を見ているような印象を受けた。

 近いうちにおそらく、何か大きなことを始めるに違いない。

ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』(堀江貴文著、ダイヤモンド社、1470円、税込)

 さて、ホリエモンが最近出版した『ゼロ』のことである。この本は、堀江さん自身が売るために書いたと言うように、読む人の心に強く訴える内容となっている。シャイな彼が生まれて初めて「かっこ悪い」自分を赤裸々につづっており、これが読む人の親近感を呼び起こす。

 ホリエモンも子供の頃は辛い時期があったんだ・・・。自信満々でやりたい放題といったかつての印象も、辛い時代のエピソードがそれをかき消してくれるどころか、ホリエモンの存在価値を高める働きすら与えている。

 そうした小さい頃のエピソードは自ら進んで書こうと思ったわけではなく、編集者にこれでもか、これでもかとしつこく聞かれて、嫌々出したそうである。その意味では、ホリエモンをよく知るための本としては、これからこれ以上のものは出てこないかと思われる。“貴重な”本と言えるかもしれない。

 ただ、インタビューした現実の彼には、このあと出てくる東京大学に対する絶大な自信が象徴しているように、何か排他的な考え方の危うさも感じた。しかし、それも彼の幼少時のエピソードによって、納得させられるから不思議である。  

伝えたいことを伝えるために「100万人に届けること」を目指した

川嶋 今回出版された『ゼロ』を読ませていただきましたが、まず、ものすごくテンポがよくて、いい文章ですね。

堀江 ありがとうございます。『ゼロ』は「100万人に届ける」プロジェクトとして作ったので、そのプロジェクトチームの力でもあります。このチームメンバーはとにかく戦略を考えるのがうまいんですよ。

川嶋 例えばどんなことですか。

堀江 「子供の頃の情けないエピソードをいっぱいください」って言われました。100万人に届けるためにはそれが必ず必要なんだと。

 これには理由があって、僕ってみんなに伝えたいことが伝わってなかったみたいなんです。まずは読者に自分の話をしていると思ってもらわないとダメなんだということですね。