戦後のドイツ人はまったくの自信喪失に陥り、その歴史は贖罪の歴史だった。ホロコーストという罪を犯してしまったがために、軍事力とは縁を切り、外交は常に低姿勢で、かつて迷惑をかけた周辺国との和解を念頭に、遠慮しながら国を運営してきた。

 NATO(北大西洋条約機構)も、そしてEUも、ドイツの力を十分に利用しながら、しかし、彼らの目的の半分は、ドイツを牽制することだった。

 考えてみれば、ドイツは長い間、実に不当に扱われてきた。しかし、それが分かっていても、すべて丸呑みする以外に、ドイツ人に国際社会復帰の道は開かれなかったのである。ところが今、それが劇的に変わり始めている。

戦後の自信喪失から「強国」へと意識が変化し始めたドイツ人

 「ドイツは人口が多く、大陸の真ん中に位置しており、世界第4位の経済大国だ。我々がすべての隣人を友人として獲得し、また、国際的な同盟の中で信用のおけるパートナーとなり得たことも、我が国の強さである」

 「統一ドイツは、世界から注目され、期待されている。我々の民主主義は息づき、安定している。我々は、高いレベルで国民が満足できる社会的モデルを形成した。それは、世界の多くの国にとってのお手本だ。皆さん、私は、ドイツが大きな態度で他国に干渉するところを想像したくない。しかし、危険や協力を避けようと小さくなっているところも、想像したくない」

ドイツ新大統領にガウク氏、旧東独出身者として初

ヨアヒム・ガウク大統領。旧東独出身者として初めてドイツの大統領となった〔AFPBB News

 以上は、今年のドイツ統一記念日10月3日の、ヨアヒム・ガウク大統領の演説の一部だ。

 大統領は、これからのドイツは大国に見合った強さを発揮し、世界のリーダーとしての役割を果たしていこうとドイツ国民に発破をかけたのだ。

 強国ドイツ?

 それは、ドイツ人が、長年、知ってはいながら、絶対に口にできない言葉だった。

 いずれにしても、公式の場で、ここまで「強さ」が強調されたのは初めてだったから、多くのドイツ人はビックリ仰天!

 しかし同時に、長い間、抑制されていた優越感が心地よく刺激され、おそらく彼らはこう思ったに違いない。「そろそろ過去のことは水に流す時期がきたのではないか」と。それ以来、ドイツ人は少し強気になったような気がする。