アフリカからの一行を乗せた観光バスが、上海市内のホテルに入ってきた。予定時刻をだいぶ過ぎての到着だった。案の定、バスから降りてきた彼らの顔は、みな一様に疲れ切っていた。
「朝9時に杭州を出発、それから観光、買い物とあちこち回った。おまけにひどい交通渋滞ですっかり疲れた」とメンバーの1人は言う。
別のメンバーは「移動中は常に監視を受け、檻の中の動物みたいで嫌だった」と嘆く。どうやら脱走の懸念も持たれていたようである。その上「8時間の時差が解消されていない」と機嫌が悪い。
至れり尽くせりの「研修」ツアー
疲労困憊の表情を見せるアフリカ人たちは、実は単なる物見遊山の観光客ではない。このツアーは政治的に仕組まれたツアーである。ツアー参加者は、アフリカ各国から派遣されたばかりの「研修生」なのだ。時差ボケ覚めやらぬ彼らをあちこち連れて回るのは、「中国の発展はすごいだろう!」と見せつけるツアー主催者の意図があった。
流行のファッションや最先端を行く電子機器を手に入れ、高層マンションに住み、高級グルメを貪る中国人――。アフリカ人に「中国は憧れの国だ」というイメージを植え付けるのは決して難しいことではない。
それは、中国のアフリカ戦略の第一歩でもある。「この発展を祖国で実現したいなら今から中国が指導する通りにやってごらん!」という筋書きに落とし込むのが狙いだ。
ツアーに参加したアフリカ人研修生の中国滞在期間は2週間だという。受け入れ元は浙江省の大学だ。参加者の国籍はベニン、ガボン、ニジェール、マリ、カメルーン、チャド、チュニジアなどである。各国から数人ずつの代表が中国に派遣され、ツアーに参加したという。
渡航費のほか、中国滞在中の宿泊費と食費のすべてを中国側が負担する。加えて「日当」として1日80元(約1280円)が支給される。これは彼らからすると相当な大金である。
当コラム(10月22日に公開)でも触れたが、中国の印象を良くし、意図するところになびかせるには、こうしたやり方が実に有効だ。
ツアー参加者の最年長者でもあり、リーダー格のマリ共和国出身者の人物は次のようにコメントする。「すべてタダだし、お金までもらえる。しかも観光に連れていってくれるこのツアーは、プアーカントリーから来た私たちにとって好印象なのは間違いない」
ツアー参加者たちは、見た目は疲れているようだが内心はだいぶ興奮しているのだそうだ。