これまで何百人もの経営者と会ってきて感じるのは、サミュエル・スマイルズの名言「天は自ら助くる者を助く」が間違いなく真理だということだ。やるかやらないかの判断に迷ったとき、やると決めた人には大きなチャンスが訪れる。

稲盛流とGE流、両方の経営を手にした男

 もっとも、チャンスに巡り合ってもそれをものにするには大いなる努力も必要になるが、やると決めた人にとっては努力が苦にならないものだ。そしてその努力は偉業への道へとつながっている場合がある。

 日本ではまだあまり知られていないが、米国ではかなり有名になった1人の男がいる。藤田浩之さん47歳。中学、高校と普通に過ごしてきた彼は、東京大学の受験に2度失敗して早稲田大学理工学部に入学する。

藤田浩之(ふじた・ひろゆき)氏
1966年、奈良県生まれ。1998年、ケース・ウエスタン・リザーブ大学(CWRU)物理学博士課程修了。物理学博士。GE退社後の2006年、医療機器開発製造会社クオリティー・エレクトロダイナミクス(QED)を設立、社長兼CEO(最高経営責任者)。
非常勤でCWRU物理学部教授、同医学部放射線学科教授を兼任。CWRU倫理と叡智のための稲盛国際センター、クリーブランド管弦楽団・クリーブランド財団等の理事も兼任。2013年、米国商務省顧問就任。

 両親も早稲田入学を喜び、普通に大学生活をスタートさせる。別に天才肌でも何でもなかったが、ある経験をきっかけに、やるという決断をする。そしてその決断が藤田さんに努力を重ねることを何度も強要することになる。

 しかし、その努力を厭わなかったことで、藤田さんが創業した会社は製造業の復権を掲げる米国のバラク・オバマ大統領から米国を代表する新進気鋭のベンチャー企業として認められるようになった。

 藤田さんは努力を続けざるを得ない過程で、稲盛和夫さんと知り合って大いに刺激を受け、そしてまた所属していた企業がGEに買収されたことで世界一の経営力を誇る企業から、GE流の経営と人事マネジメントを手に入れた。

 米国への語学留学をきっかけに、早稲田を中退して米国の大学に入り直す、しかもハーバードなどの超有名大学に直接行くのではなく、大きな回り道を覚悟でカレッジから始めるという決断がなければ、稲盛流とGE流両方の経営をじかに学ぶチャンスは得られなかっただろう。

 結果だけを見れば、人生とは全く不公平なものである。しかし、不公平は初めからあったわけではないのだ。

 いまや医療の現場では不可欠となったMRI(磁気共鳴画像診断装置)の最重要部品の1つであるアンテナを開発・製造し世界中のMRIメーカーに販売しているQED(クオリティー・エレクトロダイナミクス)の創業者であり社長兼CEO(最高経営責任者)である藤田さんに、日本の若者にいま何が必要かを聞いた。

GEで経験した社内競争の厳しい掟

川嶋 藤田さんはGEという、経営力では世界一と言ってもいい会社で働いたことがおありですが、とても有意義な経験だったのではないかと思います。

藤田 GEではMRI(磁気共鳴画像診断装置)RF(ラジオ周波数)コイルの開発と製品の製造部への移管を担当していましたが、人を切る立場にもありました。