久しぶりに農業の連載に戻ります。

 私は創造性あふれるタイプの人間ではありません。今回の連載タイトルは矢野香氏の著書『その話し方では軽すぎます!』をパクっているのではないかと思われる方がいるかもしれませんが、実はその通りです。ただし内容はオリジナルなので、よろしくお付き合い下さい。

 日本の農業政策(農政)論は、おおむね2つに別れます。1つはJAの主張をはじめとした既存体制の枠組みを維持する立場、もう1つは自由貿易を称賛し、関税の撤廃などを進めていけ、という立場です。2つは正反対の立場ですが、1つだけ共通点があります。どちらの論も、農家には全く説得力がないことです。

 例えば、TPPによってコメの高い関税が撤廃されるとしましょう。既存の農業体制を擁護する立場の人は、これで日本の米生産は崩壊すると言います。規制撤廃論者は、これで日本のコメ農家の大規模化が進んで、コスト競争力がつくと考えます。

 しかし、稲作の実際を知っている農家は、こう考えます。「農家がコメを作らなくなることはあり得ない。コメで食っていない零細の第2種兼業農家は、今だって赤字と分かっていてコメを作っている。TPPで少し生産量は減るかもしれないが、大きくは減らない。しかし、大規模にコメを作っている人たちは潰れていくだろう」

 なぜそうなるのかは、以前にも述べた(「『兼業農家』と戦って勝てるわけがない」)ので繰り返しませんが、要はどちらの立場からの予想も、農家にとって全くリアリティがないわけです。

 よって多くの農家は、いわゆる農政論者の言うことなど無視しているし、聞く耳など持っていないのが現実です。

99万ヘクタールの水田を他の作物に転用する

 なぜそうなるのか。はっきり申し上げて、農政を語る人たちの考えが甘すぎるのです。

 例えば、何かと農政論議の的にされる「第2種兼業農家」を挙げてみましょう。

 第2種兼業農家とは、農外収入が農業収入よりも多い農家です。普段はサラリーマンなどで生計を立てており、休日にトラクターを転がして小さい農地でコメを作ります。

 彼らのコメの作り方は小規模でコスト高だから米の価格が高くなる。大規模農家に生産を集約して、第2種兼業農家がいなくなればコメは安くなる・・・だいたいそんなことを規制撤廃論者は考えます。