経営力がまぶしい日本の市町村50選(19)
人口が5万人を超えているのに、市でもなく町でもない。村という肩書きにこだわり続けてきた地方自治体がある。岩手県の滝沢村である。日本一、世界一というのは悪いことでなければ人々の自尊心をくすぐるものだ。「人口が日本で最も多い村」は滝沢村の村民たちにとって1つの勲章だった。
しかし、来年1月に滝沢村はその勲章を捨てる。村から市へと移行するのだ。愛着があり絶対に抜かれることのない日本一の称号を捨ててまでなぜ市制に走るのか。
そこには強烈な危機意識があった。これまでも改革は続けてきた。しかし、少子高齢化が急速に進む中では今までとは次元の異なる改革が必要になる。非常に厳しい道ではあるが、それをやり抜くという意志表示のために、あえて日本一を捨てたのだ。
そして目指すのは地方自治日本一の称号だという。
愛着のある「日本一の村」から「滝沢市」に移行する理由
川嶋 滝沢村は盛岡市のベッドタウンとして発展し、人口は約5万5000人。町村を合わせても日本一の規模を誇ってきましたが、2014年1月1日から滝沢市へと移行します。いまこの時期に市になる理由は何ですか。
柳村 岩手県全体の人口が減る中、唯一増えているのが滝沢村と矢巾町です。ですが、このまま手をこまねいていてはダメになる、という危機感があります。
確かに、今、滝沢村は子育て世代がたくさん入ってきていて、高齢化率は今年の8月末現在で18.98%と低いですが注1、その世代も20年後には60歳を超える。
この先は急激に少子高齢化が進み、推計では2040年の高齢化率は33.6%にまで上がります。また、滝沢村の人口のピークは2020年で、そこからは減っていくんです。
現在、介護、医療、福祉に多くの予算が投入されていますが、これが今後ますます増えていきます。一方で、税収は減少する。働く世代が減っていきますから。
また、高度成長期以降これまでに建設した施設や道路などが古くなってきているので、その補修や建て替えの費用が必要になります。したがって、このままでは行き詰まってしまうのは確実です。これを乗り切るためには市にしなければならないと、その必要性を住民に訴えてきました。
川嶋 村長の考えに、住民も納得したわけですね。
注1 平成22年国勢調査による高齢化率は、全国平均:23.0%、岩手県平均:27.2%、滝沢村:17.0%