台湾の代表的なEMS企業である鴻海精密工業(フォックスコン)が貴州省で新工場を立ち上げた。その理由は中国の中で貴州省の人件費が一番低いからである。

台湾のEMS企業の中国離れが始まろうとしている

 EMS(Electronics Manufacturing Service)は携帯電話やパソコンの委託加工組み立てを請け負う専門企業である。生産は労働集約型であるため、労働力コストを低く抑えることが収益確保の鍵となる。

 これまで中国の低い労働力コストを活用し、中国国内で急速に生産規模を拡大してきた。その製品は中国から全世界向けに輸出されており、中国の雇用、税収、貿易黒字の確保に大きく貢献してきている。

 台湾系EMS企業は、以前は広東省など沿海部を中心に生産拠点を展開していたが、最近は少しでも労働力コストを低く抑えるために重慶、成都など内陸部を中心に生産拠点を増やしている。しかし、中国の経済成長とともに内陸部でも人件費が高騰し、採算が悪化しつつある。

出稼ぎ労働者暴動に厳重な取り締まり、中国広東省

中国南部、広東省の工場(資料写真)〔AFPBB News

 中国経済の高度成長が続く限り、中国全土において人件費の急速な上昇は不可避である。今回、鴻海精密工業が貴州省に新工場を建設したが、その工場の人件費もいずれ高騰する。

 貴州工場の人件費が上昇して採算が悪化すれば、中国国内にはこれ以上労働力コストの低い場所はないため、次は中国以外の国に拠点を増やしていくしかない。インドネシア、ミャンマー、カンボジア等が次の候補地であろう。

 韓国のサムスン電子はすでに携帯電話の主力生産拠点をベトナムに移しつつあり、台湾系EMS企業がASEAN諸国等に生産拠点をシフトするのも時間の問題であると考えられる。その動きが中国経済に与える影響は深刻である。

人件費高騰後の中国経済が安定を保持するための中長期的対策

 経済が発展すれば、人件費のみならず、物流コスト、不動産価格等も高まり、生産コストが上昇する。さらに、為替レートも切り上がるため、付加価値の高くない労働集約型産業の国際競争力が低下する。

 これは日本も1970年代以降の円高・賃金上昇局面で経験した。労働集約型の日本企業は生産拠点の海外移転を余儀なくされた。

 中国の場合、改革開放政策の下で外国資本を積極的に誘致したことから、国内生産に占める外資の比重が高い。外資企業は経済合理性をより重視して生産拠点を選ぶ傾向が強いため、環境変化への対応が早い。

 また、経済のグローバル化が進展し、国境を越えた生産拠点の移転は日常茶飯事となっている。このため、生産拠点の海外シフトの動きはかつての日本に比べてはるかに急速に進む可能性が高いと見るべきであろう。