9月の最終日曜日、人口2000人足らずのスイスの小さな町リヒテンシュタイグ(Lichtensteig)で、毎年恒例の「中古カメラ市」が開催された。38回目を迎えた今回は、50ほどのスタンドが並びカメラファンを魅了した。

 以前はドイツ、イタリアなどヨーロッパの近隣国や、遠くアメリカからも出店があったこのカメラ市は、ここ数年ちょっと元気がない。しかしプロ・アマの写真家にとっては「何かしら欲しいものがリーズナブルな価格で見つかる!」と、やはり足を運びたくなるイベントだ。私も初めて訪れてみた。

祖父のカメラを売る人も、わざわざ東京から買いに来る人も

写真とは無縁の職に就き、趣味でクラシックカメラを集めている男性のスタンドにて。ヨーロッパ製のほか、名前を聞いたこともない日本製のネオカ(Neoca)などを持参していた。「なかなかの数が売れましたよ」とうれしそう。ほぼ毎年出店する(撮影:筆者、以下同) 拡大画像表示

 カメラ好きの間では有名なこの「中古カメラ市」のことは、スイスに住む日本人男性Sさんに教えてもらった。Sさんは写真を趣味としていて、普通のプロ以上の並外れた腕を持つ。

 「忙しいけれど、毎年必ず来るようにしています。今年は、写真好きな息子に頼まれていた大判レンズを買いました」と、会場で会ったSさんはレンズを見せてくれた。

 一般市場ではもう入手できないというその日本製の大判レンズは、約2万円で購入した。市場に出たときは約6万円だったというレンズは、本来ならとても安く5000円ほどの価値だという。

 でも、アダプターが発売されるようになって最近の新しいカメラに取り付けることが可能になってから、価値がぐんと高まった。売る人たちはそのことを分かっているので、値段を上げているというわけだ。

 ここにスタンドを出すのは写真業を営む人に加え、趣味でカメラを集めた人たち。昔から参加している人が多い。

3代続く写真館の男性は、今年初参加。父や祖父が使っていたカメラも販売した。「ほかにもたくさん持ってきました。まだ箱の中にしまってあるんですよ」と意欲満々 拡大画像表示

 そんな中、今年初めて参加したという男性を見つけた。ディスプレイは参加者が思い思いに工夫するが、ピンク色の布に並べた昔のカメラが映えていたのに目を引かれ、思わず話しかけた。

 その50代後半と思しき男性は、写真館の3代目。自分で集めたカメラと父や祖父が使っていたカメラを持ってきた。

 祖父が使っていたというカメラを手に取り、「写真館の名前と住所が入っていますよ」と見せてくれた。フィルムがもう製造・販売されていないので撮影ができない品もあるが、飾っておきたいという人がいるので売っている。