尖閣諸島をめぐる日中対立で中国がすでに「新しい地歩」を築いたとする見解が米国の識者によって表明された。

 中国はすでに尖閣周辺の日本領海に自由に侵入できるようになったのだから、その日本領海を中国領海だとする主張は正当性が強くなった、というのだ。

 自国の領海への侵入に具体的な対応措置を取らないとなると、日本の尖閣の施政権も侵食されることとなる。まさに尖閣喪失の危機の始まりとなりかねないのである。

日本の態度は非常に危険

 尖閣諸島の日本領海への中国側艦艇の侵入がますます頻繁になってきた。日本の新聞報道でもその領海侵入を報じる記事の見出しが少しずつ小さくなってきた。例えば読売新聞9月29日朝刊を見ると、第2社会面の右下の片隅に以下のような極小の記事が載っていた。

「接続水域内中国船4隻

 第11管区海上保安本部(那覇市)によると、28日午後7時現在、沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島沖の接続水域(領海の外側約22キロ)内を中国海警局の公船『海警』4隻が航行している。4隻は27日に一時、領海に侵入していた」

 普通なら見落としてしまうほどの目立たない記事だった。すでに容疑者が何人も逮捕された殺人事件で8人目が逮捕されたという記事の後に、まさに雑報扱いで載っていた。「領海侵入」という本来なら国家の主権に対する重大な侵害行為がもう雑報になっているのだ。

 その理由はまず中国艦艇の尖閣の日本領海への侵入があまりに頻繁に起きていることだろう。だからニュース性が減っているわけだ。日本側でも、もう中国の日本領海侵入にはすっかり慣れてしまったということなのだろうか。

 だとすれば、この日本側の態度は非常に危険である。

 尖閣諸島防衛のためには最大の頼みとなる「日本側の施政権保有」という大前提の崩壊につながりかねないからだ。

 米国は尖閣の施政権が日本側に確実にあると判断するからこそ、日米安保条約に基づき、尖閣を日米共同防衛の対象に含めると主張しているのである。だからその施政権の日本への帰属が崩れた場合、日米安保条約も尖閣に関しては無意味になってしまう。