前回、前々回はリー・クアンユーとタクシンの物語を通じて、シンガポールとタイそれぞれの華人社会の「光」の部分を見てきた。しかし、東南アジアに移り住んだ中国人の人生すべてがサクセスストーリーであったわけではない。
前回述べたように、インドネシアとマレーシアの華人社会は、中国国外では第1、第3の規模を誇る巨大な中国系コミュニティーだ。今回は彼らが直面したイスラム国家との摩擦などを通じて、東南アジアの華僑・華人社会の「陰」の部分を検証してみたい。
華人社会にまつわる神話
東南アジアの華人社会にはなぜか怪しいイメージがつきまとう。
中国系移民は、(1)国内経済を事実上支配し、(2)独特の中国式生活スタイルや親「大陸」姿勢を変えようとせず、(3)強力なネットワークで隠然たる影響力を維持・拡大している、というものだ。
典型例はシンガポールだろう。しかし、タイやインドネシア、マレーシアでも経済界で成功したビジネスマンの多くは少数派の華人である。中には1代で巨大な財閥をつくり上げたヒーローも少なくない。
だからといって、中国系移民は他の民族にはない特別の商才を持ち、中国式生活を変えない偏屈さがあり、独自のネットワークで現地社会を陰で牛耳る特権階級だ、などという俗説を鵜呑みにするのは危険である。
インドネシアのクーリーたち
インドネシアにおける中国系移民社会の歴史を知れば、在外華人の実態がこうした「マフィア」的イメージから程遠いことが分かる。若干長くはなるが、インドネシア華人の不幸な過去を簡単に振り返ってみたい。