米国の次期駐日大使に故ジョン・F・ケネディ大統領の遺児、キャロライン・ケネディ氏が任命され、9月19日に議会の承認を得るための公聴会に臨んだ。承認されることは確実で、10月中にも東京への赴任が実現すると見られている。

 キャロラインさんは米国の政治史にも特筆されるケネディ家の代表としての特別の品格を感じさせるが、その一方、外交はもちろん政治の経験、あるいはアジアや日本にかかわる体験も皆無である。オバマ大統領による任命は、選挙戦での貴重な協力への報酬と見られている。

 日米双方でこの異色人事を歓迎する空気が強い一方、米国の本格派外交専門家からは強い反対意見が表明されたことも知っておくべきだろう。

ルース大使に続いて「ご褒美」で任命

 キャロラインさんの父、ジョン・F・ケネディ大統領は1963年11月、テキサス州で暗殺された。そのとき彼女は5歳だった。父親の葬儀などでの彼女の痛々しい姿は全世界の同情を集めた。

 その後、1968年には、故大統領の弟でキャロラインさんの叔父にあたるロバート・ケネディ元司法長官も暗殺されてしまった。さらにキャロラインさんの3歳下の弟ジョン・ケネディ・ジュニアも38歳のとき、飛行機事故で死んだ。こうした不幸な死の連続は、ケネディ家の不吉な呪縛を思わせると言われてきた。

 キャロラインさんは、いまは55歳の弁護士となり、ニューヨーク在住、美術品展示デザイナーの夫との間に3人子供がいる。ハーバード大学、コロンビア法科大学院、大手法律事務所というエリートコースを何年かは歩んだものの、目立つ業績や逸話は意外にも少ない。教育や文化の分野でいくつかの名誉職ポストに就く一方、よき母、よき妻の役割を果たしてきた。悲劇的な家庭環境のため極めて内向的な女性になったともいう。

 キャロラインさんは2008年1月にヒラリー・クリントン上院議員が国務長官に任じられた際、後任のニューヨーク州選出上院議員に目された。本人も出馬の構えを一時は見せた。だが最終場面で「個人的な理由」で辞退してしまった。その経緯が本人の消極性や優柔不断を印象づけ、民主党政界で不興を買ったという。

 オバマ大統領が外交や政治の未経験者のキャロラインさんを日本駐在の大使に選んだのは、明らかに2008年の大統領選キャンペーンでの彼女の貢献への報奨だと言える。

 キャロラインさんは当時、オバマ氏がヒラリー・クリントン候補と激しく民主党の指名を争う最中にオバマ氏への支持を宣言して注視された。民主党の中ではなにしろ「ケネディ」の名は特別の重みを示す。だからその支持はオバマ陣営を勢いづけ、オバマ氏本人も感謝の意を何度も丁重に述べてきた。