未曾有の大震災から2年余。被災地の復興への取り組みを金融という切り口で見つめたときに、必ずと言っていいほどその存在が浮かび上がってくる農林中央金庫。
その一方で、国際金融の中心・ウォール街では、日本を代表する機関投資家としてその名を知らない者はないとも言われる。まったく様相の異なる事業領域でビッグプレーヤーとして活動する農林中央金庫とは、いったいどんな金融機関なのか。

漁協関連の信用事業や東日本大震災後の漁業復興支援に取り組んできた田口琢也さん、海外投資や財務運営に従事してきた今井成人さんの2人に、農林中金の2つの顔と、それぞれの役割について話を聞いた。

― 田口さんは東日本大震災以降、復興支援の業務に携わってきたそうですね。

田口 私は、水産業という切り口で被災地の復興支援に取り組んできました。大震災で大きな被害を受けた沿岸部は、水産業が産業の柱であり、これを立て直すことが不可欠です。なかでも漁業は、漁船・漁具や養殖場に投資をし、長い期間をかけて回収していくという装置産業的な要素が特に強く、金融の役割は極めて重要です。

田口 琢也 氏
所属:総合企画部
職位:部長代理
経歴:
●H19.10 入庫 
水産部
(漁協系統信用事業)
●H23.6 
復興対策部
(漁業復興支援)
●H25.7 
総合企画部(経営企画)

沿岸漁業のメインバンクである漁協自身が大きな被害を受けたため、その経営安定が地域の金融円滑化に不可欠ということで、漁協に対する資本増強に取り組みました。

また、多くの漁業者が津波で漁船・養殖施設を失い、ローンだけが残ってしまう、いわゆる二重債務問題に陥ってしまいました。こうしたなかで、必要な資金をできるだけ早く、かつ少ない負担で提供することが、漁業・養殖業の速やかな再スタートに不可欠との認識で、漁業者向け金融支援の制度設計にも携わりました。

― 被災地はまだ支援が必要な状況ですか?


震災以降、現地には何度も足を運んでいますが、震災から2年半近くが経過しても、津波被害・地盤沈下に見舞われた漁港は、あまり復興に手をつけられていないところも多く、水揚げにも不自由しています。

ワカメやノリなど1年で収穫できる養殖産品については、震災前の状況に戻りつつありますが、収穫に時間がかかるカキの養殖場や、水産加工施設などの本格的なインフラ整備はまだまだこれからです。低利での資金供給、利子補給など、多様な金融支援を通じて、息の長い支援をしていくことが私たちの務めだと思っています。

― 一方で、今井さんは、田口さんの仕事とは大きく異なるグローバル投資業務に携わってきたそうですね。一般にはあまり知られていない、機関投資家としての農林中央金庫についてご紹介下さい。

今井 農林中央金庫は57兆円という非常に大きな資金を、国内外の様々な対象に投資しています。

今井 成人 氏
所属:本店付
(経営職層育成留学プログラム中)
職位:副部長
経歴:
●H11.7 入庫 
開発投資部
(クレジットオルタナティブ投資)
●H11.12 ロンドン支店
(非日系法人融資)
●H15.7 
開発投資部
(クレジットオルタナティブ投資)
●H22.7 
企画管理部(財務運営等)
●H25.7 本店付

私は、主にクレジットオルタナティブ資産への投資業務に携わった後、その経験を活かす形で組織全体の財務運営を担ってきました。国内最大級の機関投資家であるだけに、マーケットダイナミズムを直に感じる業務であり、いかにリスクを的確にコントロールして収益化していくか、という観点でこの組織を見つめてきました。

― 変化の激しいマーケットで収益を上げ続けるのは、簡単なことではないと思いますが?

今井
ご指摘のとおり、グローバルな経済・社会情勢や金融環境等によってマーケットは大きく変化するため、過去の経験則や成功体験のみにすがっていては、安定した収益を上げることはできません。

農林中金は、全く知らないもの、未知のものに対してユニバースを広げていくことに柔軟です。そして、新しい領域・地域に投資を行う際には、例えば地の果てであっても、人の知見を借りてそこに乗っかるという安易な方法ではなく、現地に行き、情報を集め、徹底的に分析して納得できるものだけに投資していく姿勢が根付いています。

効率性から考えるとデメリットもありますが、「手間を掛けてでも、きっちり収益を上げて責務を果たそう」という哲学が浸透しているので、一人一人が担うミッションは自ずと大きくなります。

― 現地に足を運び、地域に寄りそって発想する田口さんの立場からは、国際金融業務はまったく別の次元のように見えませんか?

田口 「金融を通じて日本の漁業を支える」ことに誇りと自負を持っていますが、私自身は、直接的に「お金を稼ぐ」業務に従事しているわけではありません。農林中金が系統の農林水産業のために役立てるのは、投資や運用による収益があってのことであり、役割分担とはいえ、それを担っている人たちに対しては敬意を持っています。

日々の業務で、農協・漁協からの信頼を寄せられるたびに、投資・運用業務の重みを感じ、農林中金としてしっかり磨いていかなければならないと感じます。

― 今井さんが巨大な資金を動かす中で、農林水産業について考えることはあるのでしょうか?

今井
先ほども触れたとおり、日々、アクティブに頭を使っているのは、きちんとリスクをコントロールし、収益を産むためにどうすべきかということです。ただ、農林水産業について考えない日はありません。突き詰めれば「そこに還元するために自分の仕事がある」ということは、常に意識しています。

― お2人とも転職で農林中金に入庫されました。それぞれ、どんなところに魅力を感じたのでしょうか?

田口
入庫前は政策金融に携わっていたこともあり、単純に収益を追及するだけではなく、社会に対する貢献が実感できる仕事にやりがいを見出したいという考えは以前から持っていました。

農林水産業の発展への貢献を組織の目的に掲げる農林中金ならば、これまで培ってきた金融の知識・ノウハウを活かせるだけでなく、仕事を通じて社会へ貢献している実感も得られ、高いモチベーションを持って働くことができるのではないかと考えました。

今井 以前から、国際的な金融業務で自分のキャリアを積んでいきたいと考えていました。農林中金には大量の資金があり、私が入庫した15年前は、海外運用を拡大させていく局面だったので、活躍できる舞台があるのではという期待を持っての転職でした。

―都市銀行・証券会社でも国際金融業務はありますが、敢えて、農林中金を選んだのですか?

今井
外資系金融機関などからもお誘いがありましたが、私にとっては「農林水産業というバックボーンがあり、金融を通じて農林水産業に貢献できる」などレゾンデートルがはっきりしている点が魅力でした。

単に運用益をどれだけ上げられるかというだけではなく、「誰のお金を預かり、何のために投資・運用するか」が、他の金融機関よりもずっと明確で、納得できるものでした。

― ただ、農林水産業は後継者不足や、国際競争などの面で必ずしも勢いがありません。

今井
確かに、産業としてのあり方、人口動態の問題など、難しい局面にあると思います。だからこそ、金融の面では「農林中金に預けておけば大丈夫」と思ってもらえるようでありたいし、少しでも農林水産業を側面から支えられる存在でありたいと思います。

― 農林中金で働くことのメリットはどんなところにあるとお考えですか。

今井 多様な投資対象に対して、果敢に取り組んでいます。「これは無理」という否定の発想ではなく、「調べてみよう」「考えてみよう」というところからスタートして、可能性があるものを追究できる土壌があるということは、大きな醍醐味です。

また、全国の農漁協を通じて預かった巨額の資金を動かし、確実に収益を上げていくためには情報が命です。国際金融のビッグプレーヤーとも対等に付き合い、最先端の情報を常に収集できるような体制を構築しています。

現場のセクションヘッドから部長・役員に至るまで、情報を貪欲に取りに行き、しっかりと共有していかなければなりません。少数精鋭だけに、30歳代前後の中堅クラスでも大きな責任を負うことになるので、仕事のダイナミズム、面白みは格別です。

田口 農林中金は農林水産業を担う系統組織の全国機関として、収益による貢献だけでなく、資金の融通や信用事業の推進企画、健全性確保のための施策、金融規制・制度改正対応などに、非常に高い期待を寄せられています。期待の裏には、当然、大きな責任があるわけですが、それだけに仕事への誇りや働きがいを実感する機会が多いと思います。

こうした地域に密着した業務でも「ユニバースを広げる」という意識は強く持っています。農林中金が、農林漁協系統組織の代表として、日々変化するビジネス環境に適合した施策を打ち出していくことが、農林水産業や地域社会をより良いものにしていくことにつながるという思いを持って仕事に取り組んでいます。

 

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