社会格差が広がる米国で、退職者の憂鬱が広がっている。米国は今でも国内総生産(GDP)では世界一を誇り、経済大国という代名詞がつけられているが、近年、高齢者の貧困が広まっている。
それでは貧困というのはどのレベルのことを指すのか。連邦政府が定義する米国の貧困層(2013年)は、1人住まいの場合、年収が1万1490ドル(約114万円)以下、4人家族の場合は2万3550ドル(約235万円)以下を言う。
今や高齢者の6人に1人は貧困層
米統計局によると、65歳以上の貧困層はすでに16%、約6人に1人の割合である。一昔前、米国ではいかに早く退職するかがステータスの1つであった。巨額の資産を築いて40代でリタイアし、あとは好きなことをして人生を謳歌するライフスタイルが尊ばれた。言わば「大橋巨泉的な生き方」である。
だが現実は、かなり限定された一部の富裕層だけに許される生き方であり、大多数の市民は退職年齢を自ら上げて、働き続けている。
かつては時代が進むにつれて社会がより豊かになり、個人資産も増え、文字通り悠々自適の老後を送れると信じられた時代があった。だがそれはもはや過去のものである。
数字に表れている。調査会社ギャラップによると、米国民の退職年齢は年々上昇しているのだ。1991年には57歳だったが、現在は61歳である。現役世代に「何歳で退職する予定ですか」と問うと、その平均年齢は67歳だった。あと10年もすると、若い世代は70歳まで働かなくていけないと思うようになる可能性が高い。
退職後の生活の糧になるのは年金だ。もちろん米国にも年金制度がある。ソーシャルセキュリティー(退職年金)制度は、ひと言で述べると日本の国民年金と厚生年金の両面を兼ね備えたシステムだ。
10年以上掛け金を払い続けると、62歳から受給できる。日本と違うのは、掛けた年数と金額が累進制になっているため、支給額が人によって違うことだ。
62歳から受給可能である一方、65歳や70歳まで受給を待つオプションもある。もちろん後者の方が手にできる額は増える。ただ実際は多くの人が62歳から年金を手にする。「そこまで待てない」「1日でも早く貰いたい」「いつまで生きているか分からない」など、理由はさまざまだ。
年金問題の著書もあるジャック・テイター氏は次のように述べる。