TBS報道番組の人気キャスターとして名を馳せた後、2010年10月から2012年10月まで内閣官房の審議官を務め、現在は市民メディアアドバイザーとして活躍する下村健一氏と、JBpressで市民参加のコラムを連載する鎌田華乃子氏の対談が、去る6月4日に行われた。

 会場には市民の草の根活動に関心を抱く参加者が集まり、オバマ大統領の選挙アドバイザ―でもあったハーバード・ケネディ・スクールのマーシャル・ガンツ教授による「コミュニティーオーガナイズ」の手法に関し、熱心な質疑応答も行われた。本稿では、下村氏と鎌田氏の対談内容をダイジェストでお伝えする。 

「こうすれば社会を変えられる」と知ることが第一歩

下村 鎌田さんがコミュニティーオーガナイズを学んでいると聞いて、これは今後の日本にとって重要なひとつのキーワードだと思いました。まずはコミュニティーオーガナイズとはいったい何なのかについて教えてもらえますか。

鎌田 私が興味を持ったきっかけは、ハーバード・ケネディ・スクールで受けたマーシャル・ガンツ先生の授業です。

鎌田 華乃子氏:ハーバード・ケネディ・スクール リサーチフェロー、ニューヨークのNPOで活動中、今年9月に帰国予定。鎌田氏の詳しいプロフィールとこれまでの記事一覧はこちら。(撮影:前田せいめい、以下同)

 先生は授業でワシントンDCのタコマという都市にドラッグの売人がはびこるようになったケースを取り上げました。住民の人たちがどうにもならないと諦める中、ひとりの男の人がみんなで対策を話し合おうと起ち上がったというんですね。

 それで毎週木曜日の7時からみんなで話し合う機会を設けたんですが、最初は誰も集まらなかったそうです。それでも毎週続けていたら、しだいに1人2人と賛同者が増えて話し合いが始まった。最終的には警察を巻き込んで住民中心でパトロールをやるところまで行って、結果、売人を追い出すことができた、と。

 このケースを題材に社会を変える活動をどう進めるかということをガンツ先生に教わって、日本に必要なのはこれだと思ったんです。

下村 日本にも昔からそういうことで苦労している人たちがいっぱいいました。彼らはどうグループを作っていくかで悩みながらやってきたけど、それぞれが一からやるから非常に無駄が多いんです。

 そこにひとつの理論体系を導入しようということですね。ニューヨークではコミュニティーオーガナイズの現場で働いているそうですが。

鎌田 ええ、学問的なことだけでは頭でっかちになってしまうと思って、ガンツ先生に今いるNPOを紹介してもらったんです。ひとつ大きな気づきだったのは、アメリカでもみんな最初から社会を変えられるとは思っていないということでした。

 私がオーガナイズしているのは、主にニューヨークに働きに来ているラテン系の方たちです。彼らは最低賃金以下の賃金やお給料が支払われないといった、劣悪な労働環境に苦しんでいる。だからみんなで起ち上がって政治家にプレッシャーをかけて、法律を変えていこうということをやっています。