食物繊維は健康によい成分として知られている。だが、かつては栄養的な価値はないとされていた。その後、すぐれた機能が見つかったにもかかわらず、日本人の食物繊維の摂取量は大きく減っているのだ。
そもそも、食物繊維とはどんな成分なのだろうか、そして摂取量が減った原因はなにか。
“取るに足らないもの”から健康ブームの花形へ
「食物繊維のイメージは何ですか」と尋ねれば、「体にいいもの」や「健康のために必要なもの」といった答えがたくさん返ってくる。特定保健用食品(トクホ)の中でも最も数が多いのが「おなかの調子を整える食品」で、認められている成分の多くは食物繊維である。現代人にとって、食物繊維は健康によい成分であるということは今では常識だろう。
食物繊維とは、「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」のことを言う。タンパク質や糖質などの食品の成分は、食べれば体内で消化酵素により消化され、小腸で吸収される。ところが、食物繊維は消化されずに、大腸まで達し、排出されてしまう。
「繊維」というので、食物繊維はホウレンソウやゴボウのスジ状の部分をイメージされがちだ。しかし、食物繊維にはネバネバするものからサラサラと水に溶けるものまで多くの種類がある。大まかには、野菜に含まれるセルロースやリグニンなどの不溶性食物繊維、それと果物に含まれるペクチンやコンブに含まれるアルギン酸などの水溶性食物繊維に分けられる。さらに甘味料で知られるオリゴ糖や虫歯予防で知られるキシリトールなども消化されにくいので食物繊維に含まれる。
今でこそその機能が注目される食物繊維だが、20~30年くらい前までは、「取るに足らぬ成分」で、食物繊維自体に栄養的価値はないとされていた。食べてもエネルギーにもならずに排出されるだけだし、小腸で吸収される他の栄養分の利用を妨げるとまで言われていた。だから、栄養素として扱われていなかったのだ。
そんな食物繊維が注目されるようになったのは、1972年に英国のデニス・バーキット博士らが「食物繊維は大腸がんの予防に大きな影響を与えている」と報告してからだ。
さらに、日本人の食生活は米国人に比べ、食物繊維の摂取量が多いことが分かった。日本の方が大腸がんの発症数が少なかったことから、日本の研究者の間でも食物繊維への興味が高まった。