中国の海洋戦略への米国の関心はますます高くなった。中でも尖閣諸島の日本の領有に対する中国の挑戦に、米側の警戒が集中するようになった。日中両国の本格的な軍事衝突をもたらし得る危険な発火点として、米側の専門家たちの懸念の視線が尖閣諸島に絞られるのだ。

 だがそんな中で、元米国海軍のアジア戦略の権威が、中国が尖閣に軍事攻撃をかけてきても、米国は中国との戦闘に踏み切るべきではないという意見を公式な場で述べて、注視を集めた。尖閣諸島は日米安保条約の対象範囲になると明言するオバマ政権の立場を大きく後退させる政策提言だった。尖閣の防衛はあくまで日本が責任を持て、と言うのである。

いま東アジアで最も危険なのは尖閣諸島問題

 米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は4月4日、「東シナ海と南シナ海での中国の海洋紛争」と題する公聴会を開いた。中国が東シナ海や南シナ海で領有権をいかに拡大し、主張の衝突する他国にいかに戦いを挑むか、というのが主題である。

 その中国の動向や戦略に対し、米国はどう対処すべきかが、当然、同時に論題となる。そのためには米国の官民の専門家たちが証人として登場し、見解を述べていた。

 その証人の1人がマイケル・マクデビット氏だった。同氏はワシントンの戦略研究シンクタンクの「海軍分析センター」の上級研究員という立場である。ワシントンのアジアや中国の戦略研究の分野では広く知られた専門家であり、米国海軍出身で海軍少将まで務めた。三十余年の現役軍人としてはほとんどの年月をアジア関連で過ごし、駆逐艦や航空母艦の艦長から太平洋統合軍の戦略部長、国防長官直属の東アジア政策部長などをも歴任した。

 そのマクデビット氏に対し、委員会側から次のような質問が提起されていた。

 「東シナ海と南シナ海の安全保障情勢のうち、軍事の紛争や有事へと発展しかねない最も爆発しやすい要素はなんでしょうか。その種のシナリオに対し米国はどんな役割を果たすべきでしょうか」

 この質問に対しマクデビット氏は次のように証言した。

 「爆発性という点では、台湾が明らかに中国人民解放軍と米軍との有事シナリオの中心でしょう。台湾有事への米軍の介入への中国側の懸念が、『不干渉』能力の増強をもたらしました。米軍はそれを『接近拒否』と呼び、対抗策として『空海戦闘』という軍事戦略を作り始めたわけです。しかし台湾海峡の安全保障情勢はいま静かであり、台湾の馬英九総統の任期が終わる2016年まではそのままの状況が続くでしょう。となると、現状では尖閣諸島を巡る情勢が最も大きな懸念の原因となります」

 証言のこの部分は注目すべきである。東アジア全域で最も危険なのは台湾情勢だったのだが、いまでは尖閣諸島がそれに取って代わったと言うからだ。