本年(2013年)1月19日、護衛艦「おおなみ」搭載のヘリコプター「SH60K」に中国海軍フリゲート艦「ジャンカイI級」からレーダーが照射され警報音によってそれを感知した。さらに、30日には護衛艦「ゆうだち」にフリゲート艦「シャンウエーII型」の火器管制レーダー(射撃用レーダー)が照射され、「ゆうだち」は回避行動を取った。

 いずれも尖閣諸島の北約180キロの公海上における事案であるが、後者は明らかに戦闘行為に準ずるものであり、場合によっては自衛戦闘発動に該当する。ただし、火砲の照準が護衛艦に向き、また弾薬が装填され、さらに安全装置が解除されておれば、完全に戦闘行為と判断できるが、弾薬装填や安全装置解除は不明確であるため戦闘行為とは断定できない。

レーダー照射を命じたのは誰か

 問題視したいのは火器管制レーダー照射を命じた指揮官のレベルである。火器を操作する兵員が戦闘号令(火砲を発射する際の標準化された号令)なくしてレーダー照射を行うことはあり得ない。

 また、火砲戦闘の指揮官が自発的な模擬訓練の一環として照射したとも考えられるが、日本の護衛艦という公船に対して戦闘行為と誤解されるような訓練を独断で実施するとは考えられない。

 さらに、艦長レベル(中佐レベル)、フリゲート艦数隻を指揮する群レベルの指揮官(大佐レベル)さらに群数隊を指揮する指揮官(少将レベル)、ある海域の指揮官(中将レベル)と様々な判断レベルが考えられ、最終的には共産党軍事委員会、人民解放軍総参謀部のレベルまで行き着く。

 小野寺五典防衛大臣が2月5日夕に事案を発表し、翌日午後に中国外交部(日本の外務省)の華春瑩報道官が記者会見を行った。

 この時、事案を知ったのは、いかなる手段だったかという問いに対し、数秒間絶句し「報道で知った」と答え「必要なら関係部署に問い合わせてほしい」と困惑した表情で述べたのが印象的であった。関係部署というのは明らかに「人民解放軍」のことを指している。

 人民解放軍は国務院(日本の内閣)と同格の組織であり、日本の内閣内にある防衛省・自衛隊と外務省の関係ではない。したがって華報道官の記者会見は国務院の外交部が事案の発生を通報されていなかったことを示している。

 ところが、8日午後の記者会見では豹変し「日本政府の発表、説明は捏造、でっち上げ」という発言になった。これは習近平総書記を長として軍や国務院の部門を横断する「党中央海洋権益維持工作指導組織」を新設し、尖閣問題を重要課題として取り組む姿勢であったが、その組織でレーダー照射事案の政治、外交的な統一見解をまとめた結果であると思う。

 この見解は、事案そのものが存在しないことにして、緊張をエスカレートさせ米軍のAWAX増加配備などの戦力強化を防ぎ、さらに東南アジア諸国に無法な国家という印象を与えることのないよう配慮したものと思われる。

 以上の経緯から、レーダー照射の指令が、どのレベルで判断され下令されたかは不明であるが、推測するに、事案は共産党軍事委員会の強硬派から暗黙の了解があり、人民解放軍、特に海軍の海域指揮官の裁量で実施されたのではなかろうか!

 今後、中国は「事実無根。日本の捏造」という対応を取り続けると思われる。前例は5年前のギョーザ事件である。中国の食品会社が製造し日本に輸入した「冷凍ギョウザ」に農薬が混入されていた事件である。