「リーダーシップのある人」と聞くと、明晰な頭脳でゴールに到達するために今何をすべきか判断し、自信を持って人々を引っ張っていく人を想像すると思います。

 私もそう思っていました。そしてリーダーシップを発揮することは、ある一部の資質を持つ人たちが担うべきで、自分のような一市民が担うものでも、担えるものでもないと。

 そんな私の思い込みを見事に打ち崩し、かつ、これからの世界でリーダーシップを発揮するのは日本なのではないかと考えるようになったきっかけ――現代社会に求められる「答えを持たないリーダーシップ」――を今回お話しさせてください。

「教授が教えない!」 学生が大混乱する奇妙な授業

 それに出合ったのはハーバード・ケネディ・スクールの授業でした。同校はパブリックリーダーを養成する学校としてリーダーシップ教育に注力しており、様々なリーダーシップの授業があります。

 その中でも、特に人気そして伝説的にもなっているのがロナルド・ハイフェッツ教授によるリーダーシップの授業です。

 授業の方法は今までに体験したことがないものです。

 ハイフェッツ教授は授業初日に教室にやって来て、一通り事務手続きを話した後、黙りこくってしまいます。以降の授業でも、少し話したかと思うと教室脇にある椅子に座ってぼーっとしています。

教室は半円形で学生全員の顔が見えるようになっており、生徒は全員名前が書いてある大きなネームカードを机に立てる(筆者提供)

 授業の大半はある意味、授業放棄とも言える状態のため、学生は混乱に陥ります。

 「私たちは何を学んでいるんだ」「高い授業料を払ってこれか」「学生の意見なんて聞きたくない。私は教授の話を聞きたいんだ」

 みんな言いたい放題、まさにカオス、混乱状態に陥ります。全員言いたいことを言うだけでさっぱり議論が進まない場を何とか治めようと、リーダーシップを発揮しようとする人も出てきますが、それを他の学生が「君のやり方はおかしい」とバッサリ。

 切られた方もやり返し、戦場のような緊張感に包まれます。学生間の高まる緊張感に自身の紛争体験を重ねて泣いてしまう人もいました。

 教授はたまに重い口を開いて話し出したりしますが、怒った学生たちは「こんな授業でいいと思っているのか。私たちはこの数週間何も学んでいない。教授のやり方は間違っている!」と教授をも攻撃し始めます。

 先生が講義しない授業なんて、いったい何の役に立つのか? と疑問を抱かれると思います。でも、これは多様な意見を持つ人々が集まる、いわゆる現実の世界を教室に再現したものなのです。