北朝鮮は3月5日、朝鮮戦争の休戦協定を全面的に白紙化すると表明した。6日、北朝鮮労働党の機関紙、労働新聞は「米国が核兵器を振り回せば、我々は精密な核攻撃でソウルのみならずワシントンまで火の海にする」との軍幹部の発言を伝えた。8日には祖国平和統一委員会が「北南間の不可侵に関するすべての合意書を全面破棄する」との声明を出した。
金正恩初の瀬戸際外交
またもや「瀬戸際外交」かと、溜息の一つも出そうだが、今回は要注意だ。経験の浅い金正恩が独裁者になって行う本格的な「瀬戸際外交」はこれが初めてである。
「瀬戸際外交」には空手で言う「寸止め」が利かねばならない。政権基盤もいまだ固まっていない若い未熟な独裁者では「寸止め」に失敗することも十分にあり得る。いずれにしろ我が国の安全保障に暗い影を投げかけている。
日本はえてして尻に火が点かなければ、なかなか動こうとしないが、この機に安全保障法制を総点検することを求めたい。
朝鮮半島でことが起きると、米軍がまず実施するのがNEO(Non Combatant Operation)である。韓国に在住する22万人に及ぶ米国人の救出作戦である。
我が国も3万人の在韓邦人をどう救出するかという切実な問題がある。国会で議論中の古くて新しい「邦人救出」問題であるが、この件は以前述べたのでここではあえて触れない。(「テロ多発の独裁政権末期、北朝鮮に備えよ」2010.7.20参照)
米国は軍用機はもちろん、チャーター機、民間航空機など総力を挙げて至短時間に朝鮮半島から米国人を脱出させる計画を立てている。第1避難地は日本になっているので、日本と韓国との間をピストン輸送する形となろう。
東日本大震災の際にも、放射能被害から逃れるため、関東一円の米軍人家族をハワイ以東に避難させた。在日米軍基地から婦女子があっという間に人っ子一人いなくなったことはあまり知られていない。
日本海には婦女子を乗せたピストン輸送の航空機が数珠つなぎになっているのを航空自衛隊のレーダーでも確認できることだろう。
朝鮮半島有事になれば当然、自衛隊も警戒態勢を上げる。日本海にミサイルを搭載した航空自衛隊のF15戦闘機が対領空侵犯態勢強化のため、空中哨戒を続けているに違いない。当然、F15のレーダーには数珠つなぎになったNEOの航空機が捉えられているはずだ。
その時、F15のパイロットが米婦女子の搭乗する輸送機の後方に接近する北朝鮮のMIG-29を発見したとしよう。近くにいる航空自衛隊F15が当然、MIG-29を撃墜して輸送機を援護してくれると米国人は思っているに違いない。