ルネサス エレクトロニクスは、2月19日に、鶴丸哲哉取締役執行役員(58)が社長に昇格する人事を発表した。現社長の赤尾泰氏(58)は取締役に退き、いずれ引責辞任するという。8人から4人に減らした取締役もすべて社内の昇格人事で決定された。

 政府系ファンドの産業革新機構とトヨタ自動車や日産自動車などの官民連合が1500億円の投資を完了する9月までの暫定人事と報道されているが、社長と経営陣は社外から連れてくるべきと思っている私は、いくら半年だといってもこの人事には賛同できない。

 しかし、ある日立製作所関係者から、「湯之上が言うことは正論だが、今、ルネサスの社長に求められているのは何だ? 技術が分かることか? 市場が分かることか? 経営戦略論に精通していることか? 混乱し、意気消沈しているルネサスに、そんなものは二の次だ。元気があって、大声で吼えることができる奴だろう。だとしたら、鶴丸氏は最適なんじゃないか?」という意見を聞いた。

 この意見は、乱暴ではあるが「なるほど」と思わざるを得なかった。鶴丸氏は2011年3月11日の東日本大震災でルネサス那珂工場が被災したとき、復旧の先頭に立って「絆プロジェクト」を推進した人物だ。結果的に、予定を前倒しして、那珂工場をたった3カ月で立て直し、6月には稼働させることに成功した。ルネサス社員や自動車業界からの支援者ら、合計1万人規模のプロジェクトにリーダーシップを発揮するには、「元気と大声」が必要不可欠だっただろう。

 この意見を聞いて、私もちょっと鶴丸新社長に期待したいという気持ちになった。

やはり新社長への期待は撤回

 ところが、2月11日から日本経済新聞に5回連載で掲載された「ルポ迫真」と銘打たれたルネサスの記事を読み直して、「やっぱり社内昇格の鶴丸社長ではだめだ。たとえ半年でも社外から連れてこなければ意味なし」と鶴丸新社長への期待は撤回し、最初の“正論”に戻ることにした。

 この連載記事では、米国の投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)によるルネサス買収を、政府系ファンドの産業革新機構およびトヨタ自動車や日産自動車などの官民連合が阻止する経緯を詳細に報じている。