オーデッド・シェンカー著『コピーキャット:模倣者こそがイノベーションを起こす』(東洋経済新報社)を手に取ったとき、これはてっきりサムスン電子のケーススタディ本かと思った。ところが本の中にはサムスンはほとんど登場しない。意図的に隠しているのかと思ったほどだ。
シェンカーは、イノベーションとイミテーションを融合する企業のことをイモベーター(Immovator)と定義しているが、以下の記述などはまさにサムスンの特徴そのものだ。
「(イモベーターは)模倣の特性を進化させて活かす能力を持っている。幅広い探索をリアルタイムで行う能力、複数のモデルを組み合わせる能力、製品やモデルと市場との対話を理解する能力、目まぐるしく変わる環境に合わせながら素早く効果的に実行する能力がそうだ」(第1章18頁)
シェンカーは、「模倣は希少で複雑な戦略能力であり」「イノベーション創出に不可欠な要素である」ことを出発点として記述を進める。最初は何か悪い冗談かと思って読み始めたのだが、シェンカーの論考は斬新で説得力があり、読了したときには、私の中の模倣に対する概念や常識は180度ひっくり返ってしまった。
ここで読者に問う。「あなたの会社は(または、あなたは)模倣している」と面と向かって言われたら、あなたはどう返答するだろうか? どのような感情を抱くだろうか? おそらく多くの人が「模倣などしていない」と反論し、不快感を示すに違いない。
しかし、今や私はシェンカーに代わって、あなたに言いたい。「模倣こそ、あなたの会社を成長させる原動力であり、イノベーションを起こすために必要不可欠な能力である」と。なぜ私は「模倣信者」に変身してしまったのか?
模倣が人類を進化させ、文明を発展させた
シェンカーは、哲学、芸術、歴史、心理学、経済学、認知科学、ニューロサイエンスなど幅広い学問領域に目を向け、そこで模倣がどのように行われ、取り扱われているかを調査する。
例えば、生理学者のジャレッド・ダイアモンドの著書『銃・病原菌・鉄』で、「模倣を抜きにして人類が進化することはありえなかった」という結論を見つける。
一例として、すべての文字システムはシュメール文字かマヤ文字から派生的に改良されたか、それに刺激されて考案されている。水車や磁針などの重要技術も世界で1度か2度発明されただけで、あとは模倣に次ぐ模倣が行われた。つまり、社会は自分たちより優れたものを持つ社会から模倣によりそれを獲得する。そうしなければその社会は生き残れないからだ。