今年も入試の季節がやってきました。大学の中では入試に関することはともかく緘口令で、何も話さないに越したことはない、と守り一辺倒ですが、私はそうは思わないですね。言っていいこと、伝えて社会のプラスになることは、どんどん大学教員は発言した方がいい。あれもこれも黙って霧の中では、学生も困るし世の中にも通用しないでしょう。

 特にウチの大学、つまり東京大学の入試というのは、何かと社会で取り沙汰されやすく、多くの先生は面倒なことを避けるべく忍の一字で黙っていることが大半だと思います。

東大で合格発表、胴上げの合格者ら

東大に合格して胴上げされる受験者(2008年)〔AFPBB News

 でも、例えばこんなことは言ってもいいと思うんですよね。入試を実施しているのは大学スタッフで、業者なんかではないこと。これはまあ、察しがつくところだと思います。

 その大学スタッフの1人として、学生が失敗すればいいとか、落ちればいいとかは思っていない。誰かが不当に有利になることは避けた方がいいけれど、平等な中でできるだけ本来の実力を発揮して頑張ってほしい・・・教官なら大半がそう思っていると言って間違いない。

 さらに、しゃべれるボーダーライン上の話まで言及するなら、採点者というのは、1点でも多く点をつけてあげたい、と思いながら採点している人が大半だと私は思っています・・・少なくとも自分が採点するような際には、そう思うでしょう。

 もちろん、フェアにやらねばなりません。でも、きちんと頑張った分が反映されて、25点満点なら5点や10点の人もいるかもしれないけれど、できるだけ15点も20点も25点もいるような、そういう試験・採点であるべきなのです。

 と言うのも、もし受験生全員が軒並み白紙で0、0、0、0、0・・・零点ばっかりが並んだら、これでは甲乙つけがたく、入学試験の意味がなくなってしまいますよね?

 適切な問題を作り、当日の出来を見て採点基準も望ましいものを作り、フェアな観点から本当に学生の実力が反映する問題を実施し、慎重細心な採点を実行し、きちんと実力を評価して将来伸びそうな人に大学で継続的に勉強、成長してもらいたい・・・そんな思いを持つ大学人は少なくないと思います。少なくともここに1人います(笑)。

東大合格の最大の秘訣

 さて、日本では何かと大げさに取り扱われる「東大入試」ですが、東大に高確率で合格する秘訣が実はあるのです。何だと思いますか?

 答えは「東大は合格して当然」と思うこと、なんですね。ただし自分1人ではなく環境全体が。そういう空気があれば、いろいろ変わってくるのです。

 例えば、私立灘高校という高等学校があります。毎年東大、それも理科III類(医学部進学課程)のような高得点を求められる科類にかなりの数の合格者を出している。

 では、灘出身者がスーパースペシャルなインテリか、と問われれば、申し訳ないけれどそんなことはないと言わねばなりません。

 灘に限らず、毎年東大は理科III類に学生を90人ほど受け入れ、私も過去に何百人か、教養学部第1学期の全学必修科目「情報処理」(2005年まで)「情報」(2006年から)で理III生を教えましたが、ごくごく普通の学生で、真面目な努力家もいればウイットに富む地頭巧者もいるのを見てきました。

 普通に分からないことは分からないし、特殊な才能を持って何かがずば抜けてできるというわけでは必ずしもない。

 ただ、理科III類に合格経験のある学生は、本当にやる気になったら、一定以上の知的スタミナは期待できる人が多いようにも思います。