今日2月14日はバレンタインデー。

 ローマ時代、兵士の士気低下を恐れた皇帝による禁止令を破り、若者たちを結婚させたことから処刑されてしまったというバレンティヌス司教にちなんだこの愛の誓いの日は、「Saint Valentine's Day Massacre(聖バレンタインデーの虐殺)」と呼ばれる出来事が起きた日でもあった。

聖バレンタインデーの虐殺

 1920年代、第1次世界大戦で荒廃し尽くした欧州と違って、戦火を免れた米国は、享楽的物質文化にどっぷり浸かっていた。きらびやかな衣装をまとい、自動車やラジオが大衆のものとなるアメリカンドリームが早々に実現していたのである。

 その一方で、悪名高き禁酒法が施行されていたのだが、実際には酒は何ということもなく手に入り、「スピークイージー」と呼ばれるもぐり酒場は、ごく普通の人々でごったがえしていた。

 そんな時代の雰囲気たっぷりにマリリン・モンローのコメディエンヌぶりが思う存分発揮されている『お熱いのがお好き』(1959)は、酒場のしがないバンドマン2人が織りなすドタバタ劇。そして2人がたまたま目にしてしまったのが、1929年2月14日、シカゴで起きた「聖バレンタインデーの虐殺」だった。

 密輸酒、密造酒を資金源に裏社会の覇権を握っていたアル・カポネ一味が、闇権益を巡る対立でギャング7人を殺害した事件である。

 カポネは表社会の大統領より権力があると言われる程の存在だったのだが、ハーバート・C・フーバー大統領の方も「米国は今、歴史上いかなる国も成し得なかった貧困に対する最終的勝利に近づいている」と語っているように、好調な経済に並々ならぬ自信を示しており、市民も幾ばくか持った株で金持ち気分にひたっている、そんな時代だった。

 ところが、それから間もない10月、突然、株価が暴落。この「Black Thursday」が引き金となり、後に1600万人にも及ぶ大量の失業者を生み出す世界大恐慌が始まるのである。

 やがてカポネは刑務所行き、禁酒法も撤廃された。

 しかし、時代が良くなるわけでもなく、世界は第2次世界大戦へと続く長く暗いトンネルへと入っていくのであった。

 ようやくトンネルの出口が見えかけていた1945年2月14日、ドイツ東部の美しき古都ドレスデンは絨毯爆撃を受けていた。聖母教会をはじめとする歴史ある建造物の多くが瓦礫と化し、2万5000人を超える犠牲者を出した。