唐突な鳩山由紀夫首相と小沢一郎幹事長のダブル辞任で日本中が大騒ぎになった6月初旬、中国では外資系工場で働く低賃金労働者が積年の怒りを爆発させていた。今回は最近頻発する大規模ストライキなどに見る中国の労働事情をご紹介しよう。
エコノミストの見たストライキ事件
菅直人・新内閣誕生の余波なのか日本ではあまり大きく報じられていないようだが、中国では過去1カ月ほどの間に台湾、韓国、日本企業の現地部品製造工場で中国人労働者による多数の飛び降り自殺や大規模ストライキなどの事件が頻発している。(JBpressでは何度か報じてきました(1)(2)(3)(4)(5)(6)=編集部)
日本で最も注目を集めたのは中国広東省にあるホンダ部品工場でのストライキ事件だろう。日本人との賃金格差に不満を持つ約1000人の中国人労働者がストライキを決行し、一時的にホンダは部品不足により完成車生産中止に追い込まれたらしい。
同社は最終的に労働者側の要求を呑み、一挙に24%もの賃上げに同意したという。今後中国では「外資系工場を中心に大幅賃上げは不可避となり、これまでの対中国進出戦略は根本的見直しを迫られる」などと現地日本人エコノミストがしたり顔でコメントしている。
しかし、華南地方など中国沿岸部での人件費の急上昇など今に始まったことではない。2002年からの6年間に中国労働者の平均年収は約2.5倍になったという中国側データもあるほどだ。
リーマン・ショック後の大規模景気刺激策により内陸地域にも就業先が増えてきた。そもそも中国では一人っ子政策により慢性的にブルーカラー労働力が不足している。これらストライキは最近の賃金急上昇の結果であって、必ずしもその原因ではない。
欧米リベラルの見る労働者の自殺
一方、米アップルの人気端末、iPad(アイパッド)の部品などを下請け製造する台湾資本の工場では過酷な低賃金労働を苦にした中国人労働者の自殺が最近頻発し、これまた大問題になっている。一部欧米総合誌は「The iPad Suicide」「Silicon Sweatshops」などと題し、労働者の「搾取」を許したアップル等欧米企業を厳しく批判する記事を掲載している。
それにしても、この「週70時間労働、児童労働、強制解雇」が日常茶飯事の「奴隷工場」などという人権活動家ばりのナイーブな論調はいかがなものか。アップルは同工場の自殺率がほかの同様の工場と比べてもずっと低いと主張しているようだ。
恐らくその通りなのだろう。台湾人が大陸の中国人を安く使っているのは事実だが、大陸中国人同士による「搾取」に比べれば実に可愛いものだ。そもそも、この工場での自殺事件だけが取り上げられるのはいかにも胡散臭いではないか。