「菅氏が4月に財務大臣としてワシントンに来た時、アーリントンの国立墓地に出かけ、アフガニスタンなどで戦死した米軍将兵の墓に花輪を捧げた。それなのに、なぜどのメディアも報道しなかったのか?」

 米国務省の外交官だった知人が突然、電話をかけてきて、こんな質問をぶつけてきた。

 現役時代に日本を担当し、日本に駐在し、今は民間で金融関連の仕事をする米国人である。同時に、米側で菅直人氏の政治軌跡を知る数少ない日本専門家でもある。

 彼は自分の質問の意味について説明した。

 「アメリカで日本の今度の新首相を知る人間は極めて少ないが、共通の懸念がある。それは、菅氏がいわゆる左翼と見なされる市民運動の出身であり、日米関係や外交、安全保障に関与したことがなく、発言もしていないために、『反米』『反日米安保』の傾向があるのではないか、という点だ。その懸念に対して、菅氏が財務相としてでもアメリカ軍の対テロ戦争の戦死者の霊に弔意を表したことは、大きな意味を持つ」

 つまりは、菅氏の米軍に弔意を表するという、「反米」「反安保」のイメージを薄める行動は、日米双方でもっと広く知らされるべきだった、というのである。

誰であっても鳩山氏よりは「まし」

 日本の政治動向に詳しい前国家安全保障会議アジア上級部長のマイケル・グリーン氏も、菅氏の政治的な出自から来る懸念を明らかにしている。彼は6月7日に発表したリポートで、「菅氏は左翼の人であり、日本側の一部の識者たちは、菅氏の活動家のルーツを指摘して『極左』だったという表現をもする」と述べていた。

 グリーン氏はさらに「菅氏は村山富市氏以来、自民党に籍を置いたことのない初めての日本の首相だ」とも指摘する。その言葉の背景には、左翼出身への懸念、さらには未知への不安がにじんでいる。

 ただし、グリーン氏はその一方で「菅氏は実利主義と柔軟性をも特徴とするから、前任者が重ねてきた米国との無意味な摩擦は避けるだろう」という予測を述べ、「菅首相は対米政策一つを見ても鳩山由紀夫氏よりは円滑な軌道を歩むだろう」との見解を明らかにしている。

 鳩山氏の言動は対米関係に関する限り自己矛盾や朝令暮改を重ねたから、その後任者は誰であっても鳩山氏よりはましだろう、という認識である。

 この点は、オバマ政権の国家安全保障会議のジェフリー・ベイダー・アジア上級部長も似たような見解を表明した。同じ6月7日のワシントンのシンポジウムで演説し、質問に答えて次のように発言している。