北朝鮮の銀河3号の残骸を調査した韓国国防当局によると、北朝鮮の弾道ミサイル技術はアラスカをはじめアメリカ西海岸に到達する射程距離を達成したと考えられる、とのことである。そして、アメリカ東海岸に到達する射程1万3000キロメートルの達成も時間の問題であるとアメリカ国防当局は強い懸念を示している。
ただし、アメリカ国防当局が最も強い関心を抱いているのは、いまだに弾道ミサイルの最新弾頭技術までは手にしていないと見られている北朝鮮のミサイルよりも、中国の各種長射程ミサイルである。
アメリカにとっては、中国の大陸間弾道ミサイルが何と言っても一番の関心事ではあるが、近年飛躍的に技術力を身につけ増産態勢に入った長距離巡航ミサイルに対する警戒感も極めて高い。
日本は中国の長距離巡航ミサイルの射程圏内
かつては、長距離巡航ミサイルの制御に欠かせない衛星測位システムを独占的に運用していたアメリカにとって、中国軍の長距離巡航ミサイルはさしたる脅威ではなかった。ところが、中国は独自開発した衛星測位システムである北斗システムを実用化し、2012年12月27日からはアジア太平洋地域に限ってだが民間での試験サービスを開始するまでに至っている。そのため、アメリカ国防当局は中国の長距離巡航ミサイルに対しては弾道ミサイル同様に深刻な脅威を感じ始めている。
もっとも、中国の長距離巡航ミサイルでは、現時点においては、アメリカ本土は直接攻撃することはできない(例外的に、新鋭の攻撃原子力潜水艦で接近して攻撃することは理論的には可能)。しかし東シナ海、南シナ海、それに西太平洋を航行するアメリカ海軍艦艇や、日本や韓国の米軍施設は完全に射程圏内に入っている。そのため、アメリカ国防当局は重大な関心を示しているのである。
ところが、12月25日発行JBpressの拙論で指摘したように、日本では、中国や北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルのみならず中国軍が多数取り揃えている日本を射程圏に収めている長距離巡航ミサイルに対して関心が持たれていないという摩訶不思議な状態が続いている。
もちろん、中国が弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルで日本を攻撃しても片っ端から自衛隊により撃墜可能であるならば、取り立てて脅威に感ずることもなければ、騒ぎ立てる理由もない。しかしながら、現状はそのようなミサイル防衛体制とはほど遠い状況である。そのことを再認識し、速やかに可能な対策を実施しなければならない危機的状況なのである。
日本の弾道ミサイル防衛体制の現状
自衛隊が運用している「イージスBMD」や「PAC-3」といったミサイル防衛システムは、敵が弾道ミサイルを発射した直後から追尾システムが作動して、捕捉したミサイルを撃破する兵器である。すなわち、この種の弾道ミサイル防衛システムは敵の攻撃を待ち受ける受動的な防衛システムと言うことができる。したがって“専守防衛”のイメージに合致した兵器と言うことができる。