この話を首都ワシントンで耳にしたのは20年以上も前のことである。

 大統領選で多額の献金をすると、政権内部の要職や大使のポジションを得られることもあるという。極言すれば、大使の座を「カネで買う」ということである。

 11月の大統領選で再選されたバラク・オバマ大統領は、2期目を前に政権の組閣と同時に特定国の大使の人事異動も行う。その中で、日本人にとっては「エッ、こんな人事ありですか」と呟いてしまう人選が公然と行われている。

女性誌の名物編集長がフランス大使に?

ヴォーグ誌編集長が大使に任命か、米政府はノーコメントも否定せず

ヴォーグのアナ・ウィンター編集長〔AFPBB News

 好例が米国版「ヴォーグ」誌のアナ・ウィンター編集長の去就だ。

 英国出身の同編集長は小説『プラダを着た悪魔』に登場する名物編集長で、来年、オバマ政権は西ヨーロッパ諸国の一国に大使として送り出す可能性が高い。しかもフランスか英国のどちらかが同編集長のお好みだという。

 外交には全くのシロウトであるウィンター編集長が、重要国の大使になぜ抜擢されようとしているのか。両国の政治・経済に精通しているといった理由があればまだしも、ファッション誌の編集長である。だが、そこにはそれなりの理由があった。

 実は同編集長は今年の大統領選で、オバマ再選のために50万ドル(約4000万円)以上も集金していた。いわゆる「バンドラー(束ね屋)」の1人だった。

 選挙資金改正法によると、米有権者1人が献金できる金額の上限は1回の選挙で2500ドル(約22万円)と定められている。つまり予備選で2500ドル、本選挙で2500ドルの計5000ドルまでである。

 ところが、富裕層の中には夫婦で5000ドルずつ、計1万ドルを献金する人たちも少なくない。50組の億万長者に声をかければ、単純計算で50万ドルに達する。そうした献金者のカネを束ねてくるという意味で「バンドラー」の名が使われる。

 これだけ多額の選挙資金を集めれば、当然のように見返りを期待する。いわゆる論功行賞で、その編集長の元に大使職が回ってきそうなのだ。