北朝鮮が12月12日に衛星を打ち上げた件については、日本でもマスコミ各社が大きく報道したが、正確性に欠ける部分や、曖昧な部分が散見されたので、一連の流れをQ&A方式でまとめておきたい。
<疑問・その1> ミサイル発射なのか、人工衛星打ち上げなのか?
【答え】 人工衛星打ち上げである。
報道各社はしばしば「人工衛星打ち上げと称する事実上の長距離弾道ミサイル発射」と記述。首相官邸の公式発表では「人工衛星と称するミサイル発射」となっている。
しかし、これらは、北朝鮮を非難する意図を含んだ政治的表現であり、事実関係からするとおかしい。今回の場合は、「人工衛星打ち上げ」である。
まず、「ミサイル」というのは、あくまで兵器を表す用語だ。ロケットやジェットエンジンなどで空中を飛翔し、標的に誘導される。もちろん弾頭には爆弾が搭載されている。弾道ミサイルというのは、より遠くの標的に命中させるため、推進力のほとんどを斜め上空への打ち上げに使い、その後は基本的に慣性運動により放物線の弾道で飛翔する。
他方、「ロケット」は「ミサイル」に似た用語だが、こちらは単に推進機関の種類を表す。燃料に加えて酸化剤も装備し(合わせて推進剤という)、空気がなくても燃焼して飛べるものをロケットと言う。なので、ロケットは軍事用のものばかりではない。軍事用のもの、すなわち弾頭に爆弾を搭載したものはロケット弾と呼ばれ、ロケット弾を発射する武器はロケット砲と呼ばれる。
国によってはミサイルという呼称がなく、兵器であってもすべてロケットと定義しているところもあり、世界共通の厳密な定義はないが、西側主要国では通常、誘導装置のあるものをミサイル、ないものをロケットとしている。
と、いきなり話が脱線したが、要するに、今回のケースは、まず軍事目的の爆弾を積んでいないことは明白なので、ミサイルではなくロケットである。
むろんミサイルの実験を兼ねているということもあるので、相手の意図を忖度して「事実上の長距離ミサイル発射実験」までは許容範囲だが、「実験」を外して「事実上の長距離ミサイル発射」あるいは政府の表現「ミサイル発射」ではおかしい。正しくは、「人工衛星打ち上げと称するロケット発射」である。
それに、弾道ミサイル発射実験と人工衛星打ち上げでは、飛翔のコースが明確に違う。弾道ミサイル発射実験は、上述したように放物線を描くように発射される。それに対し、人工衛星はずっと飛翔コースが低く、上方ではなく水平方向に推進エネルギーが加えられる。遠くに飛ばすのではなく、地球と水平にいかに早いスピードが出せるかが重要なのだ。