11月末、新聞に次のような記事が載った。

 「財務省は26日、全国1万684カ所(約21.8万戸)ある国家公務員宿舎を2016年度末までに半減させることや、宿舎使用料(家賃)と駐車場代の合計を14年度から段階的に平均2倍弱に引き上げる計画を正式に発表した」

 小さなベタ記事であり、他のメディアに取り上げられることもなく、国民も何ら反応を示さなかった。実は、この計画は国防上、憂慮すべき事態を生起する可能性がある。

官舎の値上げで被害を最も受けるのは自衛隊員

海上自衛隊の観艦式、相模湾

今年10月、相模湾で行われた海上自衛隊の観艦式〔AFPBB News

 国家公務員の数は現在、約56万人である。そのうち自衛隊員(事務官含む)が約25万人含まれており、国家公務員総数の44.6%を占める。今回の値上げで最も影響を受けるのは自衛隊と言っていいだろう。

 そもそも国家公務員宿舎、つまり官舎の問題が社会の話題に上ったのは、近年の「脱官僚依存・政治主導」の風潮と軌を同じくする。都心にある官舎の家賃が民間の賃貸マンションなどと比較して安く、公務員を優遇しすぎではないかという「公務員バッシング」の風潮から出てきたものだった。

 自衛隊の官舎は現在約5.7万戸あるが、都心や市街地にある官舎は微々たるものだ。自衛隊の勤務地はほとんどが地方であり、自衛官が都心の一等地にある官舎の恩恵に浴することはない。にもかかわらず、自衛隊が最もトバッチリを受ける格好となっている。

 自衛隊の勤務場所は、北は北海道の礼文島にある礼文分屯地から南は宮古島分屯基地に至るまで、全国274基地にわたる。各県の地方協力本部などを含めると全国津々浦々約330カ所に及ぶ。

 自衛官は現代の「防人」らしく、レーダーサイトなど僻地勤務が多い。四面環海の日本では、地方が国防の最前線である。有事の即応性を担保するには、最前線に自衛隊を張り付けておくのが有効であるのは論を俟たない。

 自衛隊の居住場所は国防の重要拠点であり、自衛官には「指定場所に居住する義務」が法律によって定められている。

 曹長以下(下士官)は「営舎」(自衛隊内)に、そして乗り組みを命ぜられた海上自衛官は、船舶内居住しなければならない。幹部自衛官(准尉含む)は、「営舎外」、つまり基地外に居住することが義務付けられている。