経営力がまぶしい日本の市町村50選(5)
宮崎県綾町は、いまから40年も前から町を挙げて有機農業に取り組んできたことで有名だ。40年前と言えば、日本が高度成長期に入ったばかり。農業も生産性を高めるために農薬はもちろん、化学肥料も大量に使い始めた頃である。
その時代に日本の将来を見据えて、すでに安全・安心な有機農業に目を向けていたのである。いまですら有機農業は難しく取り組む農家はそれほど多くないのに、町全体を有機農業へと舵を切った。
その頃の綾町は「夜逃げの町、人の住めない町」と呼ばれていた。たび重なる洪水で肥沃な土壌は流され農業もままならない。ならばと、工業化に向けてまっしぐらの都会へ出稼ぎに行く町民が絶えなかった。
そうしたなかで、1976年から90年まで町長を務めた郷田實さんが、ほとんど奇人・変人呼ばわりされながらも現在の綾町の基礎を作っていく。
有機農業だけではない。
「照葉樹林を伐採して木材を」という動きに徹底して反対して日本一の照葉樹林を守り抜き、そこに日本一の吊り橋を作ってしまう。いまや綾町に欠かせない大きな観光資源となっている。
そのほか、足利尊氏時代の城跡に、城を再建までしてしまう。その際には当時の建設省(現国土交通省)に認可を求めに行くがけんもほろろの対応を受けている。
前町長である郷田さんに名言がある。
「ニーズでは駄目なんだ、こうしてほしい、ああしてほしいという期待、希望、願望はニーズだろう。ニーズに答える町づくりというのは、企業だったらつぶれる。企業はニーズの先取り、ニーズを作っている」
「我々行政はニーズに答える、ニーズについていくようじゃ駄目、大事なことはトレンドだ。こういう時代がやってくるであろう、こうしておかにゃいかん、これをこうしておかにゃいかんから、こういう対応をする町を作っておかにゃいかん」
郷田さんのあとを受けた現在の前田穣町長は今年で町長就任から22年目。前田さんは言う。
「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への交渉参加に反対する人が多いようですが、私たちはTPPは歴史の流れだととらえています。反対と言ったって、世界の流れに抗することは不可能でしょう。大切なのは自分たちをどうするかですよ」
お隣の国、韓国からも注目されている綾町の取り組みについて2回に分けてお伝えする。やればできる。やらなければ負けるということである。
一流のアスリートやプロスポーツ選手が綾町に集まる理由
川嶋 綾町はドーム体育館や陸上競技場、サッカー場、馬事公苑などスポーツ施設が非常に充実していますね。Jリーグのガンバ大阪や川崎フロンターレなどが合宿に来ているとか。
前田 Jリーグだけでなく、現在、年間で大小合わせ350団体がスポーツ合宿に来ています。またスポーツ大会での利用もあります。つい先日も綾てるはドームで日本バレーボール協会の社会人大会が開催されていました(11月9~12日)。
ただ、プロ、アマ問わず一流のスポーツ選手に来てもらうためには一流の施設を整備しなければなりません。