市民の不安が根強くある、牛海綿状脳症(BSE)の問題。その疑問の数々を、千葉科学大学副学長で、2009年まで食品安全委員会プリオン専門調査会の座長を務めていた吉川泰弘さんに投げかけている。
前篇では、内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会が9月に公表した「プリオン評価書(案)」に対する見解を聞いた。
この評価案は、米国からの牛肉の輸入規制を「20カ月齢」から「30カ月齢」に緩和するなどの案を示している厚生労働省に“お墨付き”を与えたもの。吉川さんは「結論には反対していない」と言うものの、議論が熟したものだったのかという疑問も示した。
BSE発生件数は、1992年のピークには英国を中心に世界で3万7000頭だった。その後、各国の封じ込めが奏功し、2011年には21頭のみとなっている。BSE問題は完全に終結したと言えるのだろうか。
後篇では、BSE問題に関するさらなる疑問を吉川さんに投げかけてみる。日本で行われているBSE検査のあり方や、健康被害リスクに対する見方、さらに「非定型BSE」という新しい型のBSEへの対し方などを聞いた。
若い牛への全頭検査には意味がない
──日本国内での牛に対する検査について聞きます。日本では、2001年に国内でBSE感染牛が見つかって以降、と畜場で解体されたすべての牛に対して、BSEの疑いがあるかどうかの検査が行われてきました。いわゆる全頭検査です。2005年に厚生労働省は検査対象を「21カ月齢以上」に限定しましたが、自治体は消費者が不安がるからと、いまも全頭検査を続けています。全頭検査というものを、どう見ていますか?
吉川副学長(以下、敬称略) 全頭検査をすれば、BSEの疑いがある牛を見つけて排除することができるから大丈夫ということを、いまも多くの消費者が信じています。政府も、消費者が安心感を得るためにと、そのようなキャンペーンを張っていた時期がありました。
しかし、検査については、「有効な側面と無効な側面」の2つがあるということを説明しなければなりません。
──「有効な側面」とはどのようなものですか?
吉川 感染末期の高齢牛に対して検査するのは効果的であるということです。