「日本経済にとっての中国経済の重要性は来年、再来年になればよりはっきりと見えてくる。それは日本の高度成長期における米国経済のようなインパクトを持つものだ」
これは講演等の機会に繰り返し述べてきた私の見方である。日本と中国が今後、一段とウィン・ウィン関係を強めることにより日本経済へのプラスのインパクトがさらに高まることを予想したものだった。
ところが、尖閣諸島国有化問題を巡る日中関係の悪化により、タイミングは予想より早く、方向は日中両国の経済に対するマイナス効果が生じる形で日中経済関係の重要性が明らかになりつつある。
日中関係悪化は両国の経済だけでなく内政にとっても大きなダメージに
中国での受注急減を背景に日本の大手自動車メーカーが3社とも大幅減産に追い込まれた。
自動車産業は関連産業の裾野が特に広いため、他の日本企業に与える影響が大きい。最近は各社とも自動車部品の現地調達比率を引き上げているため、中国経済への影響も同様に大きいはずである。
中国リスクに対する懸念の増大が、自動車関連産業以外も含めた日本企業全体の対中投資戦略の抜本的な見直しにつながれば、両国経済へのダメージはさらに拡大する。
消費税増税を決定したものの、財政再建、経済再生の道筋が見えていない日本経済にとっては極めて深刻な問題である。足元の経済回復、雇用確保、そして長期的には日本経済再生を目指すのであれば、早期に日中関係の正常化を図る必要があるのは言うまでもない。
好むと好まざるとにかかわらず、日中両国の関係はすでにそこまで緊密化しているのである。それを明確に意識しながら対中外交に臨むことが必要となっている。
中国に対して安易に妥協することは政治的に不可能であるが、経済回復、雇用確保、経済再生のエンジンとなる日中間のウィン・ウィンの経済関係を犠牲にすることもできない。
経済関係を犠牲にすれば、国民が一番困るのは言うまでもないが、政権与党としても経済停滞を招いた責任を追及され、次の総選挙で政権交代に追い込まれる可能性が高まるからである。
この政治と経済のバランスをうまく取りながら、日中関係をコントロールしていくことが今後の日本の政権与党にとって極めて重要な課題であることが今回の事件によって明らかになった。