アジア途上国の今後の持続的な経済発展に必要なものは、金融資本主義流の「カジノ金融」ではなく、長期的な視点から産業を堅実に支える「産業金融」だ。

ベトナム・ホーチミン市のマジェスティックホテルからサイゴン川の対岸を望む(著者撮影)

 近年、アジア途上国は日本を含む外国直接投資を牽引役として高い経済成長を実現してきた。しかし、地場産業構造を顧みれば、次世代を担う地場中小企業の台頭は乏しい。

 世界金融の潮流の中では、経済実態の裏付けがない「カジノ金融」が短期的な利益をかすめ取るべく膨張し、アジア途上国のマクロ経済へも少なからず悪影響を与えている。

 そうした金融は決して地場産業や中小企業の育成に資するものではない。一方、本来、地場産業・中小企業の成長を支えるべき伝統的な「産業金融」については、まだ改善の余地が大きい。

 アジア途上国における中小企業金融の共通課題を要約すれば、(1)成長余力のある中小企業のファイナンスギャップ、および(2)中小企業金融を担うべき銀行セクターの仲介機能不全(厳格な担保条件等)と言えるだろう。

 特に、中小企業の成長過程において生業から脱却しようとするステージの設備資金、また、さらなる事業拡大を目指す中堅企業の成長資金等については、潜在的に必要な資金ニーズが充足されておらず、こうした領域は政策金融の役割が期待されるところだ。

国際機関や日本政府等による技術協力の実績と課題

 近年における中小企業政策に関する世界的な議論は、政府の役割は公平なビジネスの場を提供することとされ、中小企業金融分野の国際協力もこうした影響を強く受けている。つまり、金融監督・規制や金融インフラ整備支援を基本としつつ、大手商業銀行を中心とした組織改革、あるいは、社会政策・貧困対策としてのマイクロファイナンス支援が中心的な活動内容となっている。

中小企業金融分野における国際協力の現状
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 しかし、資本市場が未発達なアジア途上国においては、中小企業金融は銀行貸出が中心とならざるを得ず、そうした状況下、中小企業貸出市場は「大手銀行による大企業向け貸出」と「専門銀行によるマイクロファイナンス」との狭間で、ファイナンスギャップが生じていると言われている。

 アジア途上国において次世代の産業を支える地場中小企業の成長が、金融仲介機能の不全によって阻害されているとすれば、これは問題視すべきであり、持続的な経済成長に向けての包括的な改善アプローチが求められる。

 一方、日本からの技術協力の試みとしては、従来「中小企業政策金融」の観点から、日本政策金融公庫及び財務省財務総合政策研究所による技術協力(例:ベトナム社会政策銀行、マレーシアSMEバンク、ラオス開発銀行)、また日本経済研究所実施によるJICA案件では、実務領域をカバーした政府系金融機関(例:ベトナム開発銀行)へのTA(技術支援)が行われている。

 まさにファイナンスギャップの問題を抱える中小企業、特に、生業から脱出を図ろうとする小規模企業の設備資金、新たに台頭する中堅・中小企業の成長資金、産業開発金融などに着目してきたところである。