このコラムは現在毎月1回の掲載である。前回が公開された9月10日頃は、韓国のイ・ミョンバク大統領の竹島訪問が引き起こした日韓の対立が人々の耳目を集めていた。
1カ月後の現在は、尖閣諸島の国有化に端を発する日中の対立がのっぴきならない気配を漂わせて、東アジア情勢はまさに風雲急を告げる様相を呈している。
秋から冬にかけて、日中韓に台湾を加えた諸国の対立関係がどのような展開を見せていくのか、私ごときに分かるはずがない。ただ言えるのは、ここまで激しくなった国家間の対立が平穏に復するには相当な期間を有するだろうということ。
もう1つは、今のところ日本国内には反韓・反中の世論はそれほど目立っていないが、この泰然たる空気がいつまで維持できるのかということである。
仏文学者の鹿島茂氏は、一連の事態を楽観的にとらえて、以下のように書いている。
〈尖閣諸島国有化をきっかけに爆発した中国の反日暴動は、中国の一人っ子政策によって生じた歪みで若年層の男子率が異常に高くなっていることに加えて、資本主義の加速で貧富の差が拡大し、都市部に貧しく若い男子が過剰につめこまれているために起きたものであり、ナショナリズムはじつはあまり関係がない。
よって、この危機が乗り越えられれば、すでに女子が高学歴化し、少子化も加速している中国であるから、たとえ共産党政権が続いても、今後も大爆発は起きないと予想する。やがて、中国もまた少子高齢化によって日本と同じようにおとなしい国になるのである。>
(毎日新聞9月26日朝刊)
【中国が日本並みのおとなしい国になる日】と題されたコラムで鹿島氏が予想する通りに、日中関係が穏やかなものになってくれればありがたいと、私も願わずにいられない。
気がかりなのは、鹿島氏が自説の根拠として挙げている、フランス人の歴史学者エマニュエル・トッドの理論が中国にも当てはまるのかということである。
〈問題はどのような条件下でこのような大爆発が起きるのかということだ。(中略)トッドによれば、人口と識字率が決定的な要因だという。人口爆発が起きると同時に男子の識字率が上がって若年層の生存競争が激化し、個人の不満が集団の無意識へと変化しているところならどこでも、国家や体制に関係なく爆発が起きるのだ。
ただし、トッド理論によれば、男子に代わって女子の識字率が伸び、女子の多くが高等教育にアクセスするような段階に達した社会においては、どんなアジテーションを行なおうと爆発は起きなくなるという。いまの日本のように。〉