「恋愛均衡説」の見地から、離婚をしたいという気持ちの前提になるのは、自分の資産価値の方が相手の資産価値より高いというものです。もし自分が低くて相手が高かったら離婚するメリットがありません。

 浮気したから別れる、ギャンブルが好きで多額の借金をしたから別れるという考えの根源にあるのは、「私はあなたより価値がある人」という前提です。

 長い夫婦生活の間では、その相対的な価値が乱高下を繰り返します。自分が上のときもあれば、下のときもある。上のときは離婚をしたいが、下になったら離婚はできない、そのように考えるものです。

 結婚生活が長くなり、年を重ねるごとに、突然の下落がやってきます。そのときのことを考えると、離婚なんかしていられない、と思うものです。

 人生で訪れる価値の突然の下落、主なものは、次の3つです。

(1)定年
(2)病気と介護
(3)死の恐怖

資産価値の下落(その1)「定年」

 定年間際の夫婦の問題(夫の不良債権化)とその防止策については、「理由その5」で書きましたが、再度、資産価値の下落について強調しておきます。

 人生の最終局面で、夫の価値が低下することにより、妻の価値が上回るという現象が起こりますが、それが夫の定年です。だいたい60歳か65歳の定年前後を分岐点として、資産価値の逆転現象が起こります。

 夫婦で年金生活に入ると、男の収入は原則ゼロ、女の家事のスキルの価値が相対的に飛躍的に上昇します。夫は「ぬれ落ち葉」と呼ばれるくらい、妻の負荷になります。

 いままで最低でも午前9時から午後5時までは外出していたのが四六時中、家の中にいることになり、妻の負担が増えてしまうことになります。

 でも、夫は定年前のように稼いではくれない。夫の方も浮気をするほどの金銭的余裕も体力も残されていませんし、再婚できるほどの魅力にも欠けています。妻にべったりの状況になります。

 このとき初めて妻の側に離婚する合理性が生まれます。何しろ、財産は折半。年金も折半となるし、離婚すれば夫の世話や介護をしなくて済む。この状況がますます夫の肩身の狭さとなり、家庭内で居づらい状況が形成されます。