経済成長が続く新興国カンボジアにおいて、最も有望な成長分野の1つと言われる農業セクター。その中でも特にコメ輸出産業は、カンボジアが国を挙げて大々的に世界に展開していきたい国家的な重点注力分野である。

 1998年にカンボジア実質一党支配の頂点に立って14年、さらに今後10年は君臨するであろうと言われるフン・セン首相。カンボジアを統べる圧倒的実力者フン・セン首相自らが、最重要国家政策として声高に提唱する「ライスポリシー」では、2015年に100万トンの輸出達成を国策目標として掲げている。

 これは、前回の記事でご紹介したタイ・ベトナムなど近隣諸国への“100万トン規模の非公式流出”ではなく、カンボジアで精米された“正規のカンボジア米”としての輸出目標である。

 実際にタイ・ベトナムにそれだけの量のコメが非公式流出してしまっていることは、コメ事業者や当局筋には既に周知の事実であり、カンボジアを一大農地と見た場合、その生産量ポテンシャルから見れば、数量自体は十分達成可能な目標値と言える。

コメの品質チェックのため、まずはサンプルをバイヤーに評価してもらう。写真は中東に持参したカンボジア米のサンプル(著者撮影、以下同)

 だが、籾(もみ)のまま闇で流れる非正規品ではなく、精米された正規のコメとしての輸出となると、問題となるのはコメの“品質”だ。

 カンボジアにとって売り先となる海外のコメ輸入バイヤーたちは、過去数年以上にわたり世界のコメ貿易量の50%超を占めるタイ米およびベトナム米(アメリカ農務省「World Markets and Trade」による)を、日々売り買いしている。

 小麦やトウモロコシなど、貿易量も多く取引ルールも整備された他の主要穀物と異なり、コメはいまだに貿易量が小さく、今でも相対交渉による取引が主流だ。

 その中でも最たる貿易商品である東南アジア産のコメについては、目利き力や交渉力に長けた海千山千のバイヤーが跋扈する世界であり、売買において基準になるのは当然“品質”と“価格”である。

中東(カタール)のコメバイヤーとの会食。対応はフレンドリーだが、コメの品質評価はシビア

 実際、筆者もカンボジア米のサンプルを持参して中東諸国(アラブ首長国連邦アブダビ・ドバイとカタール)を営業行脚したことがあるが、主にインド商人系がマーケットを占めるそのエリアでは、バイヤーたちの品質チェック、目利き力に驚かされた。

 全く別のバイヤー数人から「今の品質レベルで、強いて買ってあげるとすればこの品種」と言われた上位品種が、順位や価格水準まで見事に一致していた。ごまかしの利かない世界であることを実感させられたことが記憶に新しい。