これまで2回のリポートでは南シナ海領有権紛争での中国の理不尽な態度を伝え、中国の海洋戦略一般の特徴を説明してきた。この戦略は当然、東シナ海の日本の尖閣諸島に対する中国の領有権主張をも含んでいる。

 では日本は中国の尖閣への動きにどう対応すべきなのか。ワシントンでの米国側の考察や意見をも踏まえながら、私自身の見解を述べてみよう。

【その1】 実効統治を強化せよ

 第1に日本が取るべき行動は、尖閣諸島の実効統治の強化である。

 自国領土を自国固有の領土として確保するためには、当然ながら、その統治を内外に鮮明にしなければならない。ごく自明の基本である。だが、わが日本政府はその自明な措置さえをも長年、避けてきた。日本政府は尖閣に対しては、「中国を刺激しないため」という理由で日本国民の接近や上陸を長年、禁じてきた。灯台の建設まで阻んできた。つまり尖閣の統治をあえて明確にしないという政策を取ってきたのだ。

 だが、その結果はどうだったか。

 2010年9月には中国漁船が尖閣付近の日本領海に堂々と侵入し、わが海上保安庁の巡視船に体当たりした。その前後から中国の漁業監視船と称する艦艇が頻繁に尖閣領海に侵入するようになった。しかも中国当局は尖閣諸島を中国領土だとする宣言をますます先鋭にしてきた。最近では沖縄でさえ日本領土ではないという趣旨の中国政府高官らの言明が目立ってきた。中国側は日本がいかに「刺激しない」ための宥和策を取っても、尖閣を自国領土だとする主張を薄めはしないのである。いや逆に、その主張を強めたと言えるのだ。

 「中国を刺激するな」論の欠陥は、他の実例でもいやというほど実証された。東シナ海の海洋資源を巡る日中紛争である。日本と中国は排他的経済水域(EEZ)の境界線が競合する海域での石油やガスの開発を巡って、主張を衝突させた。日本政府は「中国を刺激するな」という思考から、その海域での資源開発を日本企業に対しては禁止した。だが、中国は政府機関自体がどんどん開発を進めてしまった。しかも日本政府はその中国の動きを目前に見ながら放置したのだった。

 だから「中国を刺激するな」論の背後には、場合によっては紛争の核心である尖閣の主権を譲ってもよいとするような思惑がにじんでいると言える。中国を反発させない、中国を刺激しない。こんなことが日本側の最終目的ならば、そもそも尖閣諸島の領有権でも、東シナ海でのガス田開発の権利でも、中国の要求通りに譲り渡してしまえば、よいことになる。