前回のリポートでは南シナ海領有権紛争での中国の理不尽な態度を伝え、被害を受けるベトナムやフィリピン側の反応を知らせた。
その後、7月13日までカンボジアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議でも、この南シナ海領有権問題が討議されたが、総括としての共同声明がまとまらないという異例の事態が起きた。
ASEAN外相会議が共同声明を出せないという事態は、ASEANが発足してからの45年間で初めてのことだった。南シナ海領有権紛争がいかに巨大なインパクトを広げているかの例証だと言える。
同時にこの事態は、中国との領有権問題を抱える日本にとっても貴重な教訓を有している。尖閣諸島への中国の不当な要求に対しては「永遠の摩擦」を覚悟して、当たるしかないという教訓である。
ASEAN会議に見る中国の行動原理
ASEAN会議では、南シナ海の領有権問題で中国に威嚇されるフィリピンとベトナムが、中国の行動への厳しい批判を共同声明に盛り込むことを求めた。
中国は特に中沙諸島のスカボロー礁でフィリピンに軍事圧力をかけた。フィリピン側はそのことへの抗議を共同声明になんらかの形で記載することを強く要求したわけだ。
ところが中国の意向を受けた会議主催国のカンボジア政府が正面から反対した。その結果、合意が成立せず、ASEAN共同声明自体が不成立という異常事態となったのだ。この展開はASEAN諸国間に深刻な分裂をもたらし、2015年を目標とするASEAN共同体構想の実現にも大きな影を投げてしまった。
今回のASEAN会議では、南シナ海領有権紛争への対策として、中国との間で法的拘束力を持つ「行動規範」を採択することをも目指していた。この「行動規範」は2002年にASEAN諸国と中国がすでに署名した文書である。内容は南シナ海の平和と安定のために、領有権紛争はあくまで平和的解決に徹することなどをうたっていた。だが、なんの拘束力もないため、平和的解決や航行の自由尊重になんらかの強制力を持たせることが期待されていた。しかし、その署名からちょうど10年後の今年も、中国の反対で拘束力付与は実現しなかったのだ。