2007年1月、同志社大学の教員だったころ、ルネサス テクノロジ(現ルネサス エレクトロニクス)のある幹部に呼び出されたことがあった。その幹部は、私に「執筆や講演活動を止めろ」と説教を始めた。

 大学教員に「書くな、話すな」と言うことは、「仕事をするな」と言っているに等しい。大学教員でなくとも、日本には言論の自由がある。公共の福祉に反しない限り、その自由は憲法で保障されていることだ。

 当然、私は、「執筆も講演も止めません。なぜそんなことを言うのですか?」と反論した。以下、その幹部とのやり取りである。

「あいつが日本半導体をミスリードした」

 「君は、事実を歪曲しているからだ」

 「私はそうは思いません。もし仮に“歪曲”しているとしても、それは読み手が判断すればいいことです」

 「違う! そういう考え方が日本をミスリードするのだ!」

 えーっ! ミスリードだって? 私としては自分の発言が、それほどインパクトがあるとは思っていなかったので、この言葉に驚いてしまった。そして、この辺りからこの幹部は激高していった。

 「いろいろな奴が新聞や雑誌で、事実とは異なる歪曲された内容を書いた。それが日本半導体をダメにしてきたのだ」

 「・・・(絶句。無茶苦茶な論理だなあ)」

 「特に、『日経マイクロデバイス』(注:半導体の業界誌の1つ。2010年1月号を最後に休刊になった)の元編集長のN。あいつだけは断じて許せない。あいつが日本半導体をミスリードしたのだ」

 「どういうことですか?」

 「そういうことも知らずに、書いたり話したりしているから君はダメなんだ。1990年代の後半、あいつが“日本はDRAMなんか止めろ”とクソミソにけなしまくった。そして、“日本はSoC(System on a Chip:1つの半導体チップ上にプロセッサやメモリなど必要とされる一連の機能を集積した半導体集積回路)に舵を切るべきだ”という記事を書きまくったのだ。あいつが、日本半導体をミスリードしたんだ」