MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
2010年4月、私は、千葉県の房総半島南端の亀田総合病院に赴任した。以後、鴨川市の亀田総合病院と館山市の安房地域医療センターで診療を行っている。当地に来て、それまで勤務していた虎の門病院との違いに驚いたことがある。
自己負担分が払えないので入院できない
自己負担分のお金が用意できないので、入院できないという患者が珍しくないのである。
亀田総合病院では、医療費の自己負担分の未収金が年間6000万円生じている。未収金は累積で3億3000万円になる。本人がお金を持っていないので、多くは回収できない。
他にも、貧困化を感じさせる事件があった。無保険状態の患者が、他人の保険証で入院していたのが本人からの申し出で発覚した。同じことが他にもあるかもしれない。
国民健康保険被保険者の所得
国民健康保険(国保)実態調査を見ると、貧困化が進行していることが分かる。2010年度被保険者3920万人の前年(2009年)の平均世帯所得、1人当たり平均所得はそれぞれ145万円、83万7000円だった。
被保険者の平均世帯所得は2008年、2009年、それぞれ、前年より6%、8.2%減少した。2008年9月のリーマン・ショックが弱者を直撃したのである。
1994年度の被保険者の前年の平均世帯所得、1人当たり平均所得はそれぞれ240万円、109万円だった。以後減少傾向が続いた。
1993年の値を100とすると、2009年の人口、名目GDP がそれぞれ102、97とほとんど変化していないにもかかわらず、世帯平均所得、1人当たり平均所得はそれぞれ60、77だった。
国保被保険者の所得は、名目GDPに比べて減少幅が大きい。自営業者の所得の実態がつかみにくいとはいえ、同じ方法で調査されているので、変化は捉えられているはずである。また、高齢者には、貯蓄はあったとしても、捕捉されない裏収入が多額あるとは思えない。
補足説明を加える。2008年4月1日、後期高齢者医療制度の施行に伴い、75歳以上の高齢者が国保から外れ、被保険者数が5110万人から3966万人に減少し、1人当たりの平均所得は91万5000円から95万6000円に増加した。