「中国はいつ攻撃を開始するのか?」

 「我らが海軍はどこにいるのだ。なぜ出動しない?」

 南シナ海のスカボロー礁(中国名「黄岩島」)をめぐり中国とフィリピンの監視船が対峙した5月、中国のサイトではフィリピンとの交戦を促す声が高まった。

 ネット上では血気盛んな若者たちが咆哮し、メディアには海軍少尉が登場。「北緯15度07分、東経117度51分はフィリピンの領土の範囲ではない」と鼻息を荒げた。

 中国政府がフィリピンに対して「最後通告」を突きつけた5月8日前後は、まさに一触即発の状態に達した。フィリピンでは民間活動家がマニラの中国領事館前で抗議デモを行い、中国国内でも連日、黄岩島の領有を主張する報道が続いた。

中国メディアが「冷静な判断を」と呼びかけ

 海上のにらみ合いの発端は、ちょうどそのひと月前の4月8日にさかのぼる。悪天候のためスカボロー礁に乗り上げたと言われる中国漁船12隻だったが、直後に漁民らがフィリピン海軍に拘束された。

 4月10日には「黄岩島は中国固有の領土、フィリピン側の法的執行は中国の主権を侵犯する」とし、中国から海域監視船が乗り出した。

 中国は国際上の帰属の原則を引っ張り出し、「黄岩島は中国人が最も早く発見し、命名した」と主張した。他方、フィリピンはスペイン統治時代の地図を根拠に、その領有権の正当性をぶつけた。

 上海では「フィリピン産バナナの値段が高くなった」との声が上がった。上海の青果店ではフィリピン産の果物が人気だが、店先に並ぶ量が減っている。背景にあるのがこの南シナ海の対立だ。中国が対抗措置として検疫を強めた結果、フィリピン産の果物が出回らなくなったのだ。また、日本人コミュニティーの中では「セブ島に行くなら今がいい。中国人がいなくなったから」という軽口も聞かれた。

 だが、にらみ合いもそう長く続くものではない。5月半ばを過ぎると、中国では紙媒体を中心に「冷静な判断」を呼びかけるメッセージが繰り返された。そこには、昨今の中国の強硬姿勢と暴走を危惧する、中国人による中国への牽制が読み取れた。