来る5月23~24日にはエジプトで大統領選挙が行われる、はずだ。2011年2月11日のムバーラク大統領退陣表明から1年1カ月。ようやく本年3月10日、エジプトで大統領選立候補者の受け付けが始まった。果たしてエジプト民衆は「民主化」など実現できるのか。今回のテーマは「アラブの春」である。(文中敬称略)

ハムシーン

2011年の主な出来事:政治・経済編

エジプト・カイロのタハリール広場に集まり、ホスニ・ムバラク大統領の退陣を求めるデモ参加者ら(2011年2月8日)〔AFPBB News

 誰が言い出したかは知らないが、昨年中東では「アラブの春」と呼ばれる政治現象に注目が集まった。

 欧米メディアを中心に「アラブ民主化」に関する希望的観測が「これでもか、これでもか」と垂れ流された。中には、およそ実態とはかけ離れた分析や見通しが1面トップを飾ったケースも少なくない。

 筆者が最も笑ったのは「アラブの春」なる表現だ。皆さんは「hamsiin(ハムシーン)」という言葉をご存じだろうか。

 hamsiinとは、毎年2月下旬から4月中旬頃まで、断続的に北エジプトを襲う大規模な砂嵐のこと。エジプトの夏は長く暑い。その直前のごく短い「春」に起こる、あの実に不快な自然現象である。

 語源は不明だ。アラビア語で「hamsiin」は「50」を意味する。外務省入省後、筆者は1979年から2年間カイロに住んでアラビア語を研修していた。

 その由来は春の砂嵐が「50日間続くからだ」と当時聞いた覚えがある。このほかにも、「砂の温度が50度にも上昇するからだ」といった説もあるそうだ。

 どちらにしても、あの耐えられない不快さは文字にできない。

 ある朝突然、空気が生暖かくなる。窓越しに外を見れば、空はもう薄暗い。雲かと思うと、それは天空を覆う細かなサハラ砂漠の砂なのだ。息をすれば砂の微粒子が鼻と口に入り、ひどい時には目を開けることすらできない。

 運の悪いことに、ハムシーン中は時折雨が降る。上空の水滴は大気中の細かな砂を吸収し、地表に届く頃には大粒の湿った砂の固まりになる。