米スポーツ用品大手のナイキは2月、「フライニット」という新タイプのランニングシューズを発表した。米メディアが「革命的」と形容する新シューズは、内情をのぞくと確かに「靴のiPhone」と呼べるほどの商品である。
だが、ここでナイキの商品宣伝の加担をする意図はない。新商品を通して米企業と製造業の新しいシフトが見えてくるという点で貴重なのである。本題に入る前に「フライニット」について簡単に触れたい。いったい何が新しいのか。
「靴のiPhone」と呼べる斬新性
これまでスポーツ用シューズは多くのパーツが縫製されてできていた。例えばナイキの人気モデル「エアペガサス」は37のパーツが組み合わされている。ところが新商品はたった2つだけだ。
というのも、シューズとしては初めて1本の糸でニット(編み込む)することに成功したからだ。
2つのパーツというは靴底と上部だけという意味だ。しかも市販のランニングシューズとしては160グラムという超軽量化に成功している。
ナイキジャパンの広報担当者は「まず軽量化に力点を置きました。4年の歳月を費やし、とにかくいい物を作っていこうという姿勢の表れが新商品です」と説明する。
会社側は糸の材質や製法の詳細を明かさないが、ニットであっても温度変化や風雨への耐久性は問題なさそうだ。ロンドン五輪ではケニアや米国のマラソン選手が履くことがすでに決まっている。
岡山に本社を置くアパレル企業タカラの米倉将斗専務取締役は、ニットとしての斬新性を認める。
「洋服としてはすでに使われている技術だと思います。業界ではホールガーメントと呼ぶ製法で、和歌山の島精機が開発したものです。縫い目がないまま立体的に編み上げていけます。ただ靴としては新しい」