3月16日に北朝鮮が突如、「4月12~16日の間に、地球観測衛星『光明星3号』をロケット『銀河3号』で打ち上げる」と発表したことが、大きな騒ぎを引き起こしている。
北朝鮮は2月、ウラン濃縮などの一時停止と引き換えに、アメリカから食糧援助を受ける合意をしたばかり。その合意の中には、長距離弾道ミサイルの発射実験の一時停止も含まれていたから、アメリカは「約束違反だ!」として合意そのものの破棄に言及している。
人工衛星の打ち上げといっても、その実態は弾道ミサイル実験と技術的には同一であり、弾道ミサイルの技術を使ったロケット発射を禁じた国連安保理決議にも違反する。日本や韓国は当然だが、ロシアや中国ですら、この北朝鮮の決定には反対している。
それにしても、せっかくの米朝合意をダメにするような決定を、北朝鮮はなぜ唐突に決めたのか?
「衛星打ち上げなら国際的に問題にならない」?
そもそも先の米朝合意は、食糧支援が欲しい北朝鮮側の強い希望で成立したものだ。事実上、国家経済が半ば破綻状態にある北朝鮮は、前年の収穫が枯渇する毎年春先に極度に食糧事情が悪化するが、2012年は4月15日に金日成生誕100年という一大イベントがある。金正恩新政権が発足して間もないなか、その国家最大級の慶事が食糧危機でダメージを受けるようなことがあれば、新指導者の権威がいっきに低下しかねない。そのため、彼らは現在、外国からの食糧支援を喉から手が出るほど欲している。
アメリカからの食糧支援は、金正恩新体制の安定にとっては死活的に重要なもので、それゆえに北朝鮮側からすれば、2月の米朝合意はかなりの譲歩を呑んだかたちになる。北朝鮮は核ミサイル開発そのものを諦めたわけではないが、国家の難事に一時的に妥協の道を選択したのだ。
さらに、米韓連合軍が2月下旬から続けている大規模な軍事演習に対しても、北朝鮮側は抗議してはいるものの、挑発的な報復軍事行動は自制している。こうしたことから考えると、米朝合意に北朝鮮側がそれなりに本気だったことは疑いない。
だからこそ、なぜ彼らが、せっかく取りつけた合意をふいにするような決定を下したのか疑問が残る。
北朝鮮指導部の考えは、結局のところ部外者は推測するしかないが、おそらく今回の決定に関しては、金日成生誕100年祝賀の目玉行事が必要な中、「衛星打ち上げなら国際的に問題にならない」と考えた可能性が高いと思う。
技術面から言えば、前述したように、衛星打ち上げと弾道ミサイル実験は、最終段階を除いて同一のものであり、それは国際標準でも共通認識になっている。だが、言葉の捉え方次第で自分たちに都合よく解釈できる部分もあり、北朝鮮は「宇宙の平和利用であって、軍事的な要素はまったくない」と強弁すれば、なんとか通ると考えたのだろう。