ルーマニアで長く愛されてきたパンフルートという民族楽器は、日本ではマイナーな存在。楽器について知っている人もあまりいないし、アマチュア奏者も少ない。

 プロの演奏家は数人いる程度だ。一方、ヨーロッパでは、地元ルーマニアと近隣スイスで非常にポピュラーだ(文中敬称略)。

スイスでは、パンフルートは子供の習い事

古代ギリシャが発祥の民族楽器パンフルート。素材は竹など。中国製(右端)は高低音の並び方が反転(著者撮影)

 パンフルートは、長さの違う竹や木の筒を横一列につなげた素朴な楽器。筒の太さや筒口の切り方もパンフルートごとに違い、微妙な音色の違いが出る。音の種類が非常に広い楽器だ。

 ハーモニカのように楽器を動かして、穴に息を吹き込む。

 筆者も試してみたことがあるが、第一歩は穴に向けて、きちんと下方に息を吹き込んで音を出すこと。これが、なかなかできない人も多いという。

 それがプロになると、高い透明な音、ビブラート、かすれた音、高音から低音へ一気に下がる流れる音と、息遣いのテクニックをそのまま音にしてしまう。

 この原始的な楽器で、技巧的な曲を奏でるのは想像を絶するほど難しいそうだが、数分もある1曲をあやつる姿は、まさに圧巻だ。

 ルーマニアでは、自分で作って子供のときから奏でるほど親しまれている楽器で、熱狂的な奏者が多い。中でも、同国の奏者シミオン・スタンチュ・シリンクス(2010年没)やゲオルゲ・ザンフィル(現在70歳)が、パンフルートを他国に知らしめた。ザンフィルはパンフルート界の神様的な存在で、今も精力的に演奏を続けている。

70歳の現在も、精力的に活動するパンフルートの名士ゲオルゲ・ザンフィル(Gheorghe Zamfir)氏。昨年20回目を迎えた、スイスのパンフル―トフェスティバルにて(写真提供DAJOERI AG。以下、特記した以外も同社から)

 最近ではルーマニアの若手の星、ラドゥ・ネヒフォウもパンフルート界に刺激を与えている。ネヒフォウは、音大在学中はザンフィルの一番弟子だった。

 ルーマニアから2つ国隣のスイスでも、パンフルートが普及している。毎夏、世界中のプロ、アマ奏者が集うパンフル―トフェスティバルは、昨夏ですでに20回目を迎えた。昨夏はザンフィルも久しぶりに訪れ、生演奏を披露した。

 スイスでは、40年以上前の大学生の時にパンフルートに魅せられた男性ヨリ・ムルクが、パンフルート作りをザンフィルから学び、スイスにも広めようとパンフルート教室を作って懸命に取り組んできた。