カンボジア庶民層に古くから広く普及している金銭相互扶助システム「トンティン」。
日本でも同様な仕組みが「頼母子講」や「無尽講」で知られ、諸外国にも同類が存在することや、どういうキャッシュフローモデルで成り立っているかは、前回詳しくお伝えした。
一見すると「なるほど」と感心させられる、よく考えられた金融システムとも言える。だが、庶民の知恵から生まれたこの仕組みは、あくまで顔見知りや身内の間での小口金銭貸し借りの域を超えなかった。リスクヘッジする主体が存在しないからである(筆者私見)。
日本のお隣、韓国にも、「契(ケ)」と呼ばれる同様な仕組みが存在する。
「契」にはいろいろな種類があり、友人間で行われる「親睦契」や、親戚縁者が親のために行う「為親契」など、「トンティン」と同様に身内・顔見知り間での小口金銭相互扶助システムが基本となる。
しかし、富裕層の間で大きなお金が動く類の「貴族契」で潜在リスクが具現化する事件が続発した。
2008年12月、韓国の首都ソウルのカンナム(江南)地区を拠点とする貴族契組織「ハンマウムフェ(一心会)」で、参加メンバーの一部が資金需給を受けた後、資金拠出義務を不履行。結果、自分の順番が回ってきても資金需給を受けられないメンバーが続出した。
同会は約150人前後の参加メンバーで構成され、1人当たりの拠出金は1億~2億ウォン(当時レートで約700万~1400万円)。資金需給権利(拠出義務)の想定金額は最大で1000億ウォン(同レートで約70億円)とも言われ、破綻発覚当時は現地で大きく報道された。
この事件の1カ月前には、他の貴族契組織「タボックフェ(多福会)」での破綻事件も発生。 数百億ウォン規模の「貴族契」運営主が行方をくらました。
同会の会員には、有名芸能人や医者、退役軍人などの富裕層・著名人も多く、この会の会員であること自体が、高い社会的地位を示威するブランドと化していた。
そもそも口頭約束にすぎず、契約書自体も存在しない「契」は、損害を訴えたところで補償が受けられるかどうかは極めて不透明である。
また著名人たちはこの発覚をきっかけに「叩かれてホコリが出る」事態を恐れ、告訴自体をそもそも行わないケースも目立ったという。
(以上、当時の「朝鮮日報」「統一日報」の記事情報を参考にまとめたもの)