東京電力の「国有化」をめぐって、政府と経営陣の攻防が激化している。

 2月13日、東電は2011年4~12月期の決算を発表したが、純資産は6495億円まで減少した。3月下旬にはすべての原発が止まり、燃料費は事故前と比べて年間で1兆円以上増える。2012年度に返済しなければならない借金は9000億円を超え、東電の経営破綻は時間の問題である。

経営権をめぐる綱引きはマスコミ向けの「擬闘」

 このため政府は決算発表に先立って6894億円の追加支援を決めたが、債務超過を防ぐためには1兆円規模の公的資金を注入する必要があると言われる。これは自己資本の3分の2を超える。すべて議決権つきの普通株にすると、東電の経営権を政府が握ることになるので、東電の経営陣は「民間企業としてやって行きたい」と抵抗している。

 これに対して枝野幸男経済産業相は、東電の西沢俊夫社長を呼び出して「十分な議決権なしで資本注入を求めても認めない」と通告した。原子力損害賠償支援機構と東電が3月中につくる「総合特別事業計画」の条件として、政府が東電の議決権の過半数を握る「実質国有化」を行うことが、経産省の方針である。

 経団連の米倉弘昌会長は「国有化してちゃんとした経営になった企業は見たことがない」と枝野氏を批判し、政府の出資を3分の1以下にとどめるよう求めた。しかし出資を3分の1にすると東電の資金繰りが行き詰まるので、「政府は金は出せ、口は出すな」という虫のいい話である。

 マスコミの興味も、こうした経産省と東電・財界の闘いに集中しているが、これは政府が東電に厳しく接しているというポーズをとる「擬闘」である。問題は、そもそも公的資金の注入は必要なのかということだ。

なし崩しの資本注入はいつか来た道

 昨年、政府が支援機構をつくった時の約束は「国民負担ゼロ」だったのに、いつの間にか1兆円の資本注入が決まり、それが返ってくる見通しもない。賠償の責任は東電が負うはずだったのに、なし崩しに「国営東電」が責任を負うことになる。

 このように無原則に公的資金を注入する光景は、どこかで見たことがないだろうか。1998年、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行などの経営危機がささやかれ、金融危機が深刻化する中、政府は金融危機管理審査委員会(佐々波楊子委員長)をつくって銀行に1兆8000億円の資本注入を行った。