12月20日、政府は「社会保障と税の一体改革」に関する社会保障分野の改革素案を決定した。低所得高齢者向けの年金加算、子育て世代向けの給付拡充策、受給資格期間の25年から10年への短縮など、原則的に年金給付額を増やす方向でとりまとめられた。
だが、学習院大学経済学部の鈴木亘教授は、現在の年金問題の最大の問題点は「年金財政の維持可能性と世代間の不公平」だと語る。
鈴木氏は経済学者の立場から年金財政が破綻している現状を分析し、日本の社会保障制度の設計が根本的に間違っていることを訴えてきた。
年金財政の破綻はどれほど現実味を帯びているのか、また、厚生労働省が年金制度を設計する手順や仕組みにはどのような致命的な欠陥があるのかを鈴木氏に聞いた。
(聞き手:本多カツヒロ)
年金の破綻はすでに「今そこにある危機」
── 2004年に自公政権下で「100年安心プラン」という、今後、100年、年金は大丈夫ですよというプランが発表されましたが、現在の年金の状況はどうなっていますか。
鈴木亘氏(以下、敬称略) 私が行っている最新の予測では、厚生年金が2033年、国民年金が2037年に破綻します。経済前提を変えれば違う予測結果になるのではないかと言われることがありますが、私の予測の方が厚労省のものよりもはるかに現実的です。
2006年に厚生年金と国民年金の積立残高は約150兆円ありました。厚生労働省が、つい先日の「社会保障と税の一体改革」の会合で発表した今年度末の積立残高は112兆9000億円です。
そして、第3次補正予算で震災復興に借り出されていた2.5兆円が戻りましたが、今年7~9月期の運用損が約3兆7000億円です。現在もまだまだ運用損は続いていますから、差し引きで今年度の積立残高は約110兆円程度になると思われます。
5年前に約150兆円あった積立金が現在約110兆円になっているのです。つまり、1年で約8兆円取り崩している計算になります。